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阿部 博 有限責任あずさ監査法人 企業成長支援本部 インキュベーション部長

近視やドライアイ、老眼の治療・研究開発を行うベンチャー企業「坪田ラボ」。坪田一男CEOの名刺は一味違う。点字が併記されているのだ。そのことに触れると、坪田は笑顔を見せた。
「それは、眼科医ですから」

じつは、坪田は慶應義塾大学医学部眼科学教室の教授でもあるのだ。近視や老眼の予防治療を研究する傍ら、その成果をもとに提携企業と製品を共同で開発。販売で発生するロイヤリティが、坪田ラボの収入となる。ロート製薬や協同乳業、メガネブランド「ジンズ」などと提携している。坪田は、「起業も視野に入れるべき」と、医学部の学生に発破をかける。

「医療技術や知識をもつ医師こそ、より多くの人命を救い、医療の質を高めるためにも起業のリスクを取ることを考えるべきです。高度専門職なので食いっぱぐれることもありません。これからは医師の役割を再定義し、日本の国力を高めるべきです」

2019年11月には、坪田は起業に関心がある学生や社会人向けに「慶應義塾大学医学部発ベンチャー・サミット featured by KPMG」を開催。先輩起業家の講演を聴き、ネットワーキングできる機会を設けている。

こうした坪田の取り組みを支援しているのが、あずさ監査法人/KPMGのパートナーで、企業成長支援本部・インキュベーション部長を務める阿部博(54)だ。

欧米や中国の大学は、技術や知識をビジネス化し、その利益をもとにさらなる研究を進めている。このままでは日本の大学は研究で後れを取るどころか、頭脳流出によって国力すら低下しかねない—。

阿部は、研究者たちのそうした声を耳にしていた。そこで19年11月、企業成長支援本部内に「インキュベーション部」を立ち上げた。監査法人としての会計や管理の知見を生かして、大学発ベンチャー企業の創業と育成を支援するのが目的だ。

「“ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場企業)”の多くは大学発のベンチャー企業です。研究に裏打ちされた知識とビジネスマインドを兼ね備えた理系の経営者が増えています」(阿部)

一般的に、起業家たちは会社を育てる過程でいくつかの難局にぶつかる。大学発ベンチャーの場合はまず、基礎研究から実証研究に至る段階で「魔の川」に直面する。実証研究から製品開発に進む段階が「死の谷」。ここを乗り超えるとIPO(新規株式公開)という「ダーウィンの海」が見えてくる(チャート参照)。



運転資金が足りない時期もあれば、IPOを前によからぬ輩が寄りつくこともある。なかには、株式を不用意に譲渡したために、知財権を乗っ取られた研究者もいる。中立性が高い監査法人に属し、自身も公認会計士だからこそ、財務とネットワーキングの両面で、阿部は研究者の力になれると考えている。前出の坪田も「(阿部は)育成もしようとしている」と、信頼を口にする。

文=井関庸介 / Forbes JAPAN編集部 写真=能仁広之

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