ビジネス

2020.07.06 06:30

「起業ブーム」が新たなフェーズに 大学発ベンチャーへの想い


“象牙の塔”と揶揄されるように、大学では研究の商業化を忌避する風土がある。仮に商業化しても、研究成果を外部の企業に託しておしまい。結果、起業のノウハウも蓄積せず、外部資金を得る道筋も立たなかった。何よりもビジネスのマインドセットをもとうとする研究者が少なかった。

だが、それも変わりつつある。例えば、慶應義塾大学は医学部だけで、坪田ラボを含めて14社のベンチャー企業が誕生している。マインドセットに関しても変化が見られるようだ。早稲田大学ビジネススクールでアントレプレナーシップと技術経営(MOT)の研究と指導をする牧兼充(まきかねたか)准教授のゼミ希望者には、博士号取得者が年々増えているという。しかも、「理系研究者は起業家に向いている」と、牧は語る。

「博士号取得者は研究の過程で仮説が崩れる経験をしているため、失敗のマネジメントに優れています。単にサイエンスへの深い理解があるだけではなく、イノベーションを起こす思考と、プロセスのレベルが高いから起業家に向いているのです」

そのヒト・知識・技術が日本の大学には集まっている。監査法人という性質上、直接の出資はできないが、阿部は「(インキュベーション部の)ミッションとして大学発ベンチャーを創出し、それらをつなぐお手伝いがしたい」と意気込む。日本版「大学発ベンチャー企業エコシステム」という、一つの会社や組織に留まらない真の産学連携を可能にする、より大きな枠組みが生まれようとしている。


阿部 博◎有限責任あずさ監査法人 企業成長支援本部 インキュベーション部長。パートナー/公認会計士。1966年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、朝日監査法人(現:あずさ監査法人)入所。『株式公開の 実務Q&A』(共著、第一法規刊)など著書多数。

文=井関庸介 / Forbes JAPAN編集部 写真=能仁広之

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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