電通Bチームの毎月の定例会議には、数多くの興味深い一次情報が寄せられる。蓄積された事例の中には、人の行動やアイデアのクオリティにいわば「確率変動」を起こすルールが存在する。グッドルールによって、結果が想定よりクリエイティブになるなら、こうしたルールを生み出す仕組みの解明は、社会に新しい変化を起こせるチャンスかもしれない。
そんな思いで始めたリサーチの中で浮かび上がった「確変型ルール」に潜む共通のアルゴリズムから、ベーシックなものを3つご紹介しよう。
1:してもよい、しなくてもよい
世の中に認識されているルールは「〇〇せよ、〇〇するな」。法律、条例から生活目標にいたるまで、DoかDon’tかを明記したものがほとんどだ。けれど、それを崩したルールを規定した途端に新しい世界が見えてくることはよくある。今年2月からテレビ東京で「ザキヤマが○時○分、そこ行きます!ロケスケ流出ふれあい旅」という新番組が始まった。
SNS上のスケジュール流出を見て「誤爆した」と心配する声もあがったが、狙い通り大きな話題に。
あるとき、局のSNSにアンタッチャブル山崎さんのロケスケジュールが丸々流出。撮影の現場を目撃できるとあって、当然のように情報は拡散された。しかし、それが番組の趣旨そのもの。コンテンツの制作業界では、出演者の動向が記載されたスケジュールは「バレてはいけない」最も扱いに慎重になる情報。「流出してもよい、そのほうが面白くなる」としたことが話題を集めた要因になった。
さらに、世界的に大ヒットしたゲーム「メタルギア」シリーズも「敵を殲滅せず、倒さなくてもいい、逃げてもいい」という転換で「敵から隠れつつ先に進む」という新しいルールを生み出した好例だ。
2:擬人化
アメリカとカナダの国境沿いにある五大湖の一つ、エリー湖。両国民の生活を支えるこの湖では、2014年8月、化学肥料の流出により有毒な藻類が大発生し、オハイオ州トレドの住民が3日間水道水の飲用を制限された。それを機にトレド市民は水源に代わって政府または事業体を訴えることで、同様の事件の再発を防ぐことを目指した。
19年2月の特別選挙では、有権者の61%の得票で「エリー湖の生態系は人間の活動に害されることなく『存在し、繁栄し、自然に進化する』法的権利、つまり人権と同様な権利をもつ」ことを議決。今後、汚染物質などが見つかった際、エリー湖自体が訴訟を起こし、湖が自分自身の身を守ることが可能になった。
環境破壊が地球規模の問題となっているいま、エリー湖の事例は 重要なヒントになるだろう。
実は00年初頭から、エクアドル、コロンビア、インド、ニュージーランドなどで河川や森林が法的権利を獲得する事例は少しずつ増えている。自然に人格なんて奇妙と思うなかれ。我々は企業自体を「法人格」として扱い、会社が人を訴えるという活動をすでに何の疑問を持たずに受け入れている。誰かの利害ではなく、そのものの利害のために人間と同じルールで考える。事象を擬人化するアルゴリズムによって、関わる人同士のイメージの共有を図れるだけでなく、自分ごと化しやすいという利点が生まれる。