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川村雄介の飛耳長目

世の中はときとしてひっくり返る。昨日までの秩序や常識が通用せず、ほとんどの人が途方に暮れる。大量の失業や一家離散の悲劇が増える。

だが、こんなときにこそ、新時代を果敢に取り込んで大きな成功を収める例も少なくない。

生きていればとうに100歳を超えている私の母が、生前、口癖のように言っていた。「私の叔母の知り合いに源吉博士ってお人がいてねえ。X線のパイオニアよ。京都の人なんだけど東京のお屋敷も凄かった」。恐らく島津製作所草創期の島津源吉氏のことだろう。

語り部のように母は「御一新」のころの逸話を話していたが、とりわけ京都物がお気に入りだった。神戸に嫁いだ叔母の影響だ。「源吉さんのお父さんは京都の仏具屋さんの腕のいい跡継ぎさんだった。特に香炉や燭台みたいな鋳物が得意。なにせ京都は神社仏閣の町だからねえ。そりゃ、御一新前は随分と繁盛だったことだわね」。

そこに明治維新だ。政府は廃仏毀釈を断行した。寺社が破壊され仏具は溶かされた。鋳物仏具店はまさに存亡の淵に立たされた。

他方で新政府は殖産興業を国是にして、京都では舎密局が拠点になった。源吉の父、源蔵は舎密局に通って近代科学を猛勉、持ち前の鋳物技術を活用しながら近代的な理化学機器の開発製造に着手した。医療機器、蓄電池などを次々に手がけ、日本で最初の有人気球飛行を成功させている。X線もその流れである。

新政府の欧米型教育制度も源蔵の事業に追い風となった。学校の人体模型や実験器具、鉱物標本などに大量の注文が寄せられたのだ。かくして、絶滅危惧種の仏具鋳物技術は、日本を代表する先進的技術企業に発展していったのである。

時代の転覆は、科学技術分野の発展だけではなく、新たな事業モデルも生み出す。日本の生命保険外交といえば、長く女性外務員がトレードマークであった。誕生のきっかけは先の敗戦にある。大量に生まれた戦争未亡人の雇用受け皿として、女性生保外務員が威力を発揮した。悲しい唄『星の流れに』が流行る一方で、女性生保外務員は後年の、世界に冠たる「セイホ」の原動力になったのだ。

今年前半は新型コロナウイルスに世界中が振り回されている。生命も生活も経済も酷い状況である。企業活動も私生活も巣ごもり状態、大半の人々の気持ちが落ち込み、金融は危機モード、企業マインドは最低である。

だが、最近ではコロナ後の世界を見据える機運も芽生えている。コロナの負の面だけに追い込まれるのではなく、来るべきコロナ後の事業モデルをポジティブに模索しようという動きだ。そんなときに、歴史上の激動期は大いに参考になる。戦国時代は遠すぎるだろうが、明治維新や敗戦はそう昔ではない。ヒントが山のようにある。

コロナ禍の煽りを受けたのが東京オリンピック・パラリンピックである。猛練習に全力をあげてきたアスリートたちは本当に気の毒だ。

文=川村雄介

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