歴史的悲劇から我々が学ぶことは?


1969年である。東大入試中止の年だ。現役受験生はもちろんだが、とりわけ浪人生を襲ったショックは大きかった。だが、他大学に進学したり、1年待ったり、とそれぞれの選択で、彼らは後に社会で大いに活躍した。もっと遡ると、終戦で退学を余儀なくされた陸軍士官学校や海軍兵学校の生徒たちがいた。帝国軍人を目指した彼らの眼前から、大日本帝国そのものが忽然と消えてしまったのである。しかし、これらの若人たちが戦後高度成長経済の原動力になったことは周知のとおりである。

現在、日本中の大学が教室で授業を行えず、リモート教育を強いられている。通常の授業開始は例年よりはるかに遅れる。これも実はチャンスではないか。思い切って夏休みを前倒しにしたうえ、9月入学を制度化できないものか。世界標準は9月入学であるのに、わが国では何かとしがらみが多い。コロナ禍という「外圧」を利用して、学制をグローバル化することも一案だと思う。

17世紀に英国を襲ったペスト災厄。主要物資はすべてロンドンに集められ、地方経済は疲弊した。ペスト終息の翌年、ロンドンは更なる不幸に見舞われた。空前の大火だ。地方からの物資もすべてが灰燼に帰した。

ところが、これが新たな需要を生んだ。地方経済が活性化し、英国中が生産と取引に沸き立った。海外との交易も再開され、ペスト後の7年間は英国史上屈指の経済活況を生んだのである。


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、2000年に長崎大学経済学部教授に。現在は大和総研副理事長を経て、日本証券業協会特別顧問。また、南開大学客員教授、嵯峨美術大学客員教授、海外需要開拓支援機構の社外取締役などを兼務。

文=川村雄介

この記事は 「Forbes JAPAN 6月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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