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妖怪経済草双紙

『百鬼夜行絵巻』, 国立国会図書館デジタルコレクション, コマ番号:16(著作権保護期間満了(パブリックドメイン))より

妖怪。私たちの恐怖を体現するその存在は、いつも何かのメタファーになっている。そして、経済や社会現象を映す鏡でもある。日本証券業協会特別顧問で、一般社団法人グローカル研究所代表理事の川村雄介氏が、妖怪譚で時代の動きを語る。


今や、世の中はマスクに覆いつくされています。電車もお店も街角も、ほとんどの人々がマスク姿、たまにマスクなしの姿をみると、こちらの方が引いてしまいそうになります。

かつて、花粉症の内服薬があまり効かない頃、大学で教えていた私は、ゴーグルとマスクを装着したゼミの女子学生に「君、地球防衛軍みたいだね」などと軽口をたたいたものでした。

昨今では同じような姿のコロナ防衛軍が巷に溢れています。マスク、ゴーグルに加えて、フェース・シールドを装着した重武装の人もいます。こうなると、顔が隠れているのが当たり前で、口元や鼻筋を人目に晒すのは例外になる。人間、面白いもので、そうなると隠れているものが見たくなるんですね。

思い出すのが、私が駆け出し社員時代、今でいう都市伝説でしょうか、「口裂け女」という話が大流行しました。まあ、作り話で様々な尾ひれもついていたわけですが、白いマスクの美女が、ネオンの光芒を遮るような裏町の路地に佇んでいる。そのどこか寂しげにしどけない風情に引き込まれるように近づく。少し乱れた長髪に輝くような大きな眼。よく見やると涙を浮かべています。

 「どうしたの? 大丈夫ですか?」

すると彼女はくぐもったような声で「あたし、綺麗?」

「うん、とても綺麗ですよ」

すると彼女はマスクを外しながら「これでも綺麗なの?」

あとはご想像の通りです。

一見何の問題もなさそう、むしろ美しさすらある。なのに、その裏の正体は、不安とオドロオドロシサに満ちている、という寓意なのですが、ではなぜこんなホラーが広まったのか。マスクの下に潜む時代背景が関係しているのではないか。

口裂け女の噂は1978年頃に拡散しました。

この年、株価は5000円そこそこから始まり、年末には6000円を超えました。全体としては良好なパフォーマンスでしたが、日米貿易摩擦の激化と円高圧力が増す中、総合経済対策が打たれるなど、経済環境は波乱含みでした。年末には金融引き締めと原油の値上がりに見舞われたものです。当時のベストセラーはJ.ガルブレイスの『不確実性の時代』でした。

しかも、翌年のイラン革命に伴う第二次石油ショックの足音が、日毎高まっていました。日本社会も国際社会も、いわば「将来に対する漠然とした不安」を抱えていたのです。

そんな世相や社会心理を生みの親として誕生したものが、口裂け女話ではなかったのか。妖怪とか幽霊とか化け物とかいわれる存在は、社会と経済の鏡だと思うのです。

文=川村雄介

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