ユカシカドにとってのDX
野本:ユカシカドではDXに、どのように取り組んでいるのでしょうか。
美濃部:ユカシカドは栄養改善の側面から人々の健康、理想の実現を支援するヘルスケア企業です。2017年からは、自宅で尿を採取して郵送、その検査結果から尿からたんぱく質やビタミン、ミネラルなど15種類の検査項目を評価するパーソナル栄養検査キット「VitaNote(ビタノート)」を提供しています。
前提としては、DXにどう取り組んでいくかを先に考えたというより、圧倒的にユーザー視点で考えた結果としてDXが必要だったというのが正しいと思っています。
先の議論に合わせてお話するとまずは顧客価値。VitaNote Quickはアプリと組み合わせて利用頂くサービスですので、ユーザーと継続的に接点を持ち、トラッキングできるという点は大きいと思います。デジタルでは様々なデータが取れるので、それを顧客にとって意味のあるレコメンドやパーソナライズに活かすことを前提に進めています。
これまで「これだけを食べたら大丈夫」とか、ソリューションだけがリッチだったウェルネス産業において、人によって体質や課題が違うという点を考慮し、レコメンドやパーソナライズを提供しています。
事業面では、例えば、今回のVitaNote Quickは郵送せずにアプリで検査結果を確認できるので、コスト削減にも大きく影響しました。もちろん、それを価格に反映し、手軽に検査したいという顧客のニーズは満たせていると思います。
大手企業とスタートアップがDXで協業する方法
美濃部:最後に少し観点を変えて……。スタートアップが大手と協業してDXを推進していくためのコツみたいなものはありますか?
野本:大手企業はチャネルとか部分ごとのデジタル化ではなくて、バリューチェーン全体を見据えて5年後くらいどう脱皮していたいかというものをまず描かないとスタートアップも協力しにくいかなと思います。
リフォームではなくて家の建て替えなんですよね。どこまで骨格を残すかの議論をする前提として、まずは建て替え後の設計図を描くということが一番大事な気がしますね。
美濃部:なるほど。DXの部署を立ち上げてデジタル化を推進しようとはしているけどバリューチェーンまでは考えていなくて、設計図までできている大手企業って少ないと思うんですよ。こういうところに対してはまず設計図を描いてもらう必要があるということでしょうか。
野本:そうですね。特定の部署にDXのミッションを負わせるのはなかなか重荷だと思います。先駆的な会社の特徴としては、CEOあるいはそれに準ずる立場のひとがトップダウンで、労力かけて進化させているという点が挙げられるのではないでしょうか。
美濃部:その通りですね。ではスタートアップ側はどうしたらいいですか?
野本:どういう事業をやりたいか次第です。企業のDXを支えるソフトウェアプロダクトを提供するのも非常に有意義ですが、自社でデジタルネイティブなバリューチェーンをゼロから作り上げてしまう、生まれながらにしてDXされた事業を展開するというのも面白いんじゃないかなとは思いますね。既に動いている重厚長大なバリューチェーン組み換えるより、速やかに新しいバリューチェーンを構築できる可能性があります。そういう会社が増えると、日本もより面白くなってくると思います。
美濃部 慎也◎大学時代は関西学院大学アメリカンフットボール部に所属。新卒で株式会社リクルートに入社し、人材領域の営業・企画を経て単身でオイシックス株式会社(現オイシックス・ラ・大地株式会社)に出向し事業企画に従事。リクルートとオイシックスのJV立ち上げに携わった後、2013年3月に株式会社ユカシカドを設立し、代表取締役に就任。
野本 遼平◎弁護士としてスタートアップのビジネススキーム策定・提携交渉・資金調達等の支援に携わり、その後、2015年にKDDIグループのSupershipホールディングスに入社。経営戦略室長及び子会社役員として、事業開発、戦略提携、M&A、投資、政策企画について、戦略立案から実行・PMIまでを統括。2019年よりグロービス・キャピタル・パートナーズにて、スタートアップ投資・ハンズオン支援に従事。