「それは大都会ニューヨークの手荒な歓迎の儀式なのかもしれない」と彼は笑うが、マーティンはその時、人生で初めて911に緊急通報を行った。
「なんだか奇妙な話だと思ったよ。非常事態の最中にポケットからスマホを取り出して、電話をかけるというのは。もっと効率的なやり方があってもいいはずだと考えた」と彼は話す。
「アプリからウーバーを呼べる時代になぜ、緊急通報は電話にしか対応しないんだろう。これはユーザーエクスペリエンスの問題というよりむしろ、国のインフラの問題なんだと考えるようになった」
その後、ハーバード大学のMBAに通うようになった彼は、MIT出身のNick Horelikと組んで、緊急通報をスマート化するプロダクトの開発に乗り出した。プログラム開発はHorelikに任せ、マーティンは週に20回も911のエージェンシーと面談を重ねたという。
その結果生まれたのが、RapidSOSという社名のスタートアップ企業だ。同社のプロダクトはあらゆるコネクテッドデバイスと連携し、緊急事態の際に必要なデータを、911にダイレクトに送信する。
RapidSOSは6月上旬、2100万ドルの資金調達を実施した。今回のラウンドはTransformation Capitalの主導で、C5 CapitalやLaerdal Million Lives Fundも参加した。
RapidSOSのプラットフォームは外部のAPIと連携可能な点がメリットだ。同社はウーバーとも提携を結んでおり、乗車中に問題が発生した場合は、アプリ内のボタンを押すだけで、車両の位置や乗車人数、車のナンバーなどを911に送信できる。
また、健康に問題のある人が心臓発作などのトラブルに襲われた場合、ウェアラブルデバイスのデータをRapidSOSが自動的に収集し、911に通報することが出来る。
米国赤十字社ともパートナーシップ
「RapidSOSのツールは緊急通報をスマート化し、迅速な処置を促せる。会話が困難な状況では特に威力を発揮する」と、同社のCEOを務めるマーティンは話す。彼は2017年のフォーブスの「30アンダー30」に選出されていた。
RapidSOSは先日、米国赤十字社や米国心臓協会、NGOのDirect Reliefとのパートナーシップを発表しており、全米の5000社近くのエマージェンシーサービスと提携を結んでいる。同社のプラットフォーム上では個人の医療プロフィールを作成可能で、万が一の際の緊急対応に役立てられる。
米国では年間2億4000万回の911通報が行われており、特に新型コロナウイルスのパンデミック以降は、通報件数が急増した。ニューヨーク市の当局によると、パンデミックの初週の通報件数は、911テロの際の件数を上回ったという。
ニューヨーク本拠のRapidSOSは現在120人を雇用し、累計で1億700万ドル(約115億円)の資金をエクイティで調達している。