その一人であり、朝鮮半島東北部に位置する咸鏡北道出身のカン・ナラは、ユーチューブで制作に関わった経験を語っている。彼女は2019年夏に、カフェでインタビュー形式で「諮問」に対応したと話した。金正日の死後から金正恩時代に起こった変化や背景について、また生活様式全般のアドバイスも行った。
ドラマを全て見終わった彼女は、ドラマと現実のシンクロ率は「60%」だと評価した。ドラマならではのシナリオに、現実味が時々なかったことからこのように評価しているが、ドラマのセットや方言、北朝鮮の風景はかなり再現度が高かったと感心したようだ。
監督を支えた北朝鮮出身の作家とは
諮問委員以外に、この作品を支えたと言われる重要人物がいる。補助作家のクァク・ムナンだ。BBCコリアによると、彼は脱北者の中でも独特な経歴を持っていて、脱北する前は平壌の演劇映画大学で映画演出を専攻していたそうだ。2005年ごろ韓国に来て以来、映画業界に従事しているそうだ。
補助作家クァクは事実になるべく基づいたシナリオづくりに貢献した。以下はBBCコリアのインタビューでクァクが語ったことだ。
「僕が考える一番良いフィクションは、あくまで『ファクトベース』であることだと考えます。一度はセリ(主人公)に北朝鮮の方言を教えるシーンを用意するアイデアが上がっていたのですが、すぐに却下となりました。また、セリをひたすら家に隠すことも提案されましたが、それだと村の人たちと交流するシーンが描けないじゃないですか。
ここで僕が提案して実際に採用されたのが、セリが11課に所属し極秘任務を任されているという設定です。セリが韓国から来たということを公言しながらも、北朝鮮にいることが許され、周囲とも交流を怪しまれずにできる一番現実的なシナリオだったのです。11課は本当に存在しますからね。だから事実に基づいたフィクションが生まれたのです」
フィクションでも、現実味のないものは面白くないというクァク氏。実に過去の経験と知見を駆使して生まれた、彼なしでは実現できなかったシナリオだろう。
一番リアルなシーンは?脱北者たちが語る
韓国では愛の不時着が公開されたあと、脱北者の作品レビューをまとめた記事や番組が注目された。ドラマで起こった韓国では見られない事件や人間関係など、韓国人たちの好奇心を刺激したからだ。脱北者たちが北朝鮮の実情を語る動画がユーチューブでしばしば見られるのも、その反響があったからだろう。
主人公リ・ジョンヒョクが住む家の外観や村は、脱北者たちが見てもかなりリアルに近く再現されているそうだ。最もよく北朝鮮の姿を描いた部分は、「チャンマダン(市場)だ」と脱北者たちは口を揃えて答えた。雰囲気だけでなく、棚の下に隠してある輸入が禁止されているはずの韓国の製品を取り出すシーンも、よくある光景だという。