初期は手作りで売る? ようやく見つけた唯一の工場
実は、筆者がこの取材を申し込むきっかけとなったのは、実際に食べてとても美味しかったという経験からだ。社名にあるマッスル(筋肉)という言葉からは、本格的なトレーニングを行う人やプロテインシェイクという先入観を持ってしまった。恥ずかしながらその狭い視野で食したせいもあるが、スパイシーで味のバランスもよく、レストランのテイクアウトのようなクオリティだった。
この出来ばえに至るには、相当なハードルがあったことだろう。
「管理栄養士さんの力をお借りして栄養素のバランス、食品関連の法的な問題など、多くのステップが必要でしたが、特に大変だったのは製造工場でした。創業したての実績のない会社は相手にされません。最初の頃はBARの昼間の場所を間借りして作り、手売りしていました。当然それではまったくスケールしない。文字通り日本全国、あらゆるお弁当製造工場にあたり続け、ようやく1社見つかったのです」
宮城にあるその工場は、介護食や給食など、安全安心の面でも強い1社だった。メニューのバリエーション、味、量など綿密に打ち合わせ、試作品から改善を繰り返し、理想的な形に作り上げてくれた。これは大きな起点となり、成長ストーリーが始まるのだ。
商品化は容器も重要なポイントだった。低GIで高タンパク低カロリーの一皿は量が少なくなりがちだが、満足度を高める大きさ、温めムラの面からも従来の形状や素材ではなく新しい仕様を試行錯誤した。
マーケティングの強化で停滞期を脱出
本格的に稼働した「日本には無かった栄養を管理したお弁当のデリバリー」は、1期目から消費者からの人気を得たが、その伸びは次第に停滞する。ひととおり認知を得てから先の、マーケティング面が課題だったのだ。そこに、現取締役の篠田開斗が入ってきた。
「私はITベンチャーで働きながらボディメイクのためのトレーニングを続けてきました。しかし西川と同様に、食事管理の課題を感じていました。トレーニング経験者の私に、周りからアドバイスを求められるんですけど、いくら食事の重要性を説いても、食事管理を継続して実践できる人は圧倒的に少なかった。これだと永遠に変わらないと思って以前から良いサービスだと思っていたマッスルデリに入社しました」