欧州の人気都市、観光業再開で交錯する期待と不安

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欧州の主要観光地の住民らは今、大量の観光客が飛行機やクルーズ船、列車で再び押し寄せるようになる前のひとときを楽しんでいる。経済的な生き残りには観光客が必要だが、観光客が戻れば街も元通りになってしまうことに不安を感じている人は多い。

押し寄せる観光客に苦慮していたバルセロナ


スペインでは、2万8000人以上が新型コロナウイルスの犠牲となり、観光業も深刻な打撃を受けた。米AP通信によると、観光業はスペインの経済活動の12%を占めているが、国立統計局によれば4月に同国を訪れた観光客はゼロだった。スペインでは昨年、700万人の訪問者が70億ユーロ(約8400億円)を消費した。

バルセロナは新型コロナウイルス流行前、米民泊大手エアビーアンドビーの台頭への対抗策を講じ、昨夏には観光客の受け入れ制限を計画していた。バルセロナの人口は約160万人だが、昨年同市を訪れた観光客は約1190万人で、うち1000万人が海外からだ。

バルセロナは今、観光客を切実に必要としているが、地元住民は大聖堂やアントニ・ガウディのサグラダ・ファミリア(今も閉鎖中)への道を尋ねられることなく目抜き通りのランブラスを歩けることを楽しんできた。

アダ・コラウ市長は新型ウイルス流行前、同市の空港拡張や、クルーズ船の入港制限を通じた観光客抑制を約束していた。

観光客のせいで同市が「パーティーの中心地」となってしまったとなげいていた地元住民は今、市内のビーチが再びきれいになったと感じる一方で、観光客なしでこの街がどれほどの間生き残れるかを懸念している。

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新型コロナウイルスの影響で今も閉鎖しているサグラダ・ファミリアの様子 / Getty Images

クルーズ船のない未来を描くベネチア


イタリアのベネチアは再び観光客に門戸を開き、マルコ・ポーロ空港からは他の欧州都市に航空便が出ている。多くの欧州市民はこの機会を利用し、世界からの旅行客が戻る前に同市滞在を楽しんでいる。

ベネチアは5月14日に観光業を再開。平日はまだ静かだが、週末は少しずつ活気を取り戻している。同市は今、長年にわたり求めていたクルーズ船の寄港禁止をついに達成したようだ。クルーズ船がジュデッカ運河で衝突事故を起こした昨年6月には、多くの人が抗議活動を行い、同市に寄港する大型客船の数を大幅に削減するよう求めた。

多くのクルーズ船企業の操業再開がまだ許可されておらず、ビュッフェの取りやめや時間差を設けた食事・乗船などクルーズ船の形態が変化する中、クルーズ船が今までと同じような形で到着することはなさそうだ。ただ問題は、地元経済の今後だ。英紙ガーディアンによると、多くのレストランの週末の売り上げの90%はクルーズ船利用客からのものだった。

9月のベネチア映画祭、7月のレデントーレ祭の花火の開催が予定通り進められる中、ベネチアは盛大な夏を迎えることを望んでいる。問題は、大型客船なしでどれほどの収入が得られるかだ。

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観光客が誰もいないイタリアのベネチア / Getty Images
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編集=遠藤宗生

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