今回は、デザインアワードで160点以上も受賞し、P&G、コクヨ、Microsoft、Panasonic、LIXIL、富士通、村田製作所、大阪ガスといった多くの企業をはじめ、自治体や大学もが参考にするデザイン学をもつハーズ実験デザイン研究所(大阪府豊中市)代表取締役の村田智明の著書『バグトリデザイン』に学ぶ。
「バグ」とはご存じの通り、コンピュータープログラムの欠陥や不具合のこと。また法律分野では「瑕疵」の意味で使われることがある。実は私たちの日常生活にも、様々な不具合や矛盾、瑕疵があるのだ。
「行為が阻まれる事象」こそが「バグ」
シンプルなデザインで人気を博すiPhoneシリーズ。新作発表時には搭載された新機能に注目が集まるが、そのそぎ落とされたデザインに魅せられて、iPhoneから離れられないファンも多い。
ただ、もったいないシーンを見かけることも。せっかくのデザインを隠すように、端末の保護・装飾のため、多くのユーザーが「iPhone用カバー」を付けるのだ。高価なiPhoneの損傷を防ぐ目的は理解できるが、せっかく精巧にデザインされた本体がまったく見えない状態で使われてはもったいない。そんなiPhoneの使われ方に対して、「矛盾が生じている」と指摘するのが村田だ。
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「行為が阻まれる事象」のことを「バグ」ととらえ、人の行為を観察し、創造体験をしてバグを見つけ出し、解消するデザインを考える。つまり、企業にとってユーザーが目的までの行為をなんの滞りもなく、なめらかに進行できるデザインを目指しているのだ。
「人の行為を観察すると、そこにバグが生じていることがあると気づきます。 初めはスムーズに歩いていても、分かりにくいデザイン表示のせいで迷いが生じて歩みが止まったり、あるいは店先に置かれている好みのテイストの雑貨を目にして思わず手に取ったり、人の振る舞いは必ずしも一定のリズムで行われるとは限りません。(書籍『バグトリデザイン』(P4より)」
メリットの輪郭は、「行為の疎外」原因が浮かび上がらせる
同書の目次を見ているだけで、あるある! と膝を打ってしまう。例えば、「ウェブサイトのユーザー登録時のタイムアウト」や「全く使えないパソコンのヘルプ」「マイカーに戻れない大型駐車場」「頭に残らない流暢なスピーチ」「同時に使い切ることができないシャンプーとコンディショナー」「断熱カップで舌を火傷する」「間違えやすいエレベーターの開閉ボタン」など、改めて私たちの日常にいろんなタイプのバグが存在することがわかる。
「研究所の中やデータベースに答えがあるのではなく、目の前の行為が阻まれる事象の原因究明こそが問題やメリットの輪郭を浮き出させ、ユーザーの行為をデザインする指標となります。そこで得た結果と指針は、もっとイノベーティブで持続的な効果を生み出します。(書籍『バグトリデザイン』(P5より)」