クルマは災害時、「ライフライン」になる

映画『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』 の会見にて

東日本大震災が起きてから、9年が経った。僕は東京の高層ビルで打ち合わせをしていたその日の恐怖を昨日のことのように覚えている。だから、話題作『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』(全国公開中)を観たとき、地震発生時の記憶がよみがえり、最初の10分は涙を流しながら見入っていた。

主演の佐藤浩市と渡辺謙による熱演がとても印象的な作品だったが、深く考えさせられるある重要なシーンがあった。それは、福島第一原子力発電所(イチエフ)を津波が襲って発電室が海水でいっぱいになったときのことだ。

地震と津波の影響で同原発に「ステーション・ブラックアウト(SBO:全電源喪失)」が起きたため、水のポンプなど、いっさいが稼働しなくなった。その直後に、作業員たちはなんとかポンプを再開させるために電源を求めてクルマのバッテリーをできる限り集める、という非常に緊迫したシーンがある。結局、集めたバッテリーのおかげで水ポンプの再開はできたものの、さらなる余震によってまた全電源を喪失してしまう。

そのときにふと思った。電気自動車(EV)やエンジン付きのプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)、水素燃料電池車(FCV)のような電動車両があれば、その問題はもっと簡単に処理できたのでは、と。例えば、電気自動車の「日産リーフ」や「日産セレナe-POWER」、水素燃料電池車の「トヨタ・MIRAI」と「ホンダ・クラリティ」、世界一売れたPHEV車である「三菱自動車アウトランダーphev」があれば、電源の問題が生じた場合に役立つ。

災害時に役立つ“動く発電所”


今でもよく覚えているが、2016年の熊本地震で停電中の益城町役場前からNHKニュースが三菱自動車アウトランダーphevで撮影現場を照らしていた。同車は、炊飯器やコーヒーメーカーなども使える2つのAC電源コンセントを備えているので、計1500Wの電力を給電できるのだ。

こういうクルマは“動く発電所”と言ってもいい。同車と家庭用充電スタンドの間で給電・充電できる「V2H」機器を使用すれば、ガソリン満タンで最大家1軒が消費する電力10日分をまかなえる発電能力をもつ車両になる。ちなみに、誰でも買えるこのクルマは390万円から。


2016年4月に起きた熊本地震では、クルマの中で避難生活を送る家族の姿も

ところで、三菱自動車は今年1月に開かれた「東京オートサロン2020」で災害専用車を発表している。災害対策車両「特務機関NERV《ネルフ》制式 電源供給・衛星通信車両 5LA-GG3W(改)」という、アニメ「エヴァンゲリオン」シリーズにヒントを得て、ゲヒルン・三菱自動車・スカパーJSATが共同で開発したアウトランダーphevの特装車だ。

災害時、この1台で電力と電話サービス、Wi-Fiインターネットを提供できる。ゲヒルンがアプリ「特務機関NERV防災」やSNSを通じて防災情報を配信するなど、自助・共助・公助が一体となった理想の災害対策車両だ。


三菱自動車アウトランダーphevをベースにした災害対策車両。災害時、電力や電話サービス、Wi-Fiを提供できる

日産も非常用電源として活用できるリーフを販売している。車両と家庭をつなぐ「V2H」機器対応のリーフは、2〜4日分の電気を供給できる。また、ライフラインが途絶した避難所でも、排気ガスを出さないリーフならば室内でも使用可能。つまり、リーフを避難所の中に停めることで、電気をまかない、暖房器具や炊飯器、コーヒーメーカーを使える。

さらに、日本で大人気の日産の電動パワートレイン「e-POWER」搭載のセレナも災害時に大活躍。これにも2つのAC電源コンセントが付いており、日産によると電磁調理器に接続すれば、2200個のおにぎりを作れるうえ、携帯電話も1900時間分も充電できるそうだ。
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文=ピーター・ライオン

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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