クルマは災害時、「ライフライン」になる

映画『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』 の会見にて


世界初の大量生産FCVであるトヨタ・MIRAIは、14年に登場した。簡単にいうと、FCVは水素を燃料とする電気自動車だ。じつは多くのカーメーカーがFCVで実験をしているが、実際に日本で市販車としてFCVを出しているのはトヨタ(MIRAI)とホンダ(クラリティ)だけである。

説明するまでもなく、こういったFCVはほとんど売れていない。でも、それらが普及しないのは、生産台数が少ないからだ。MIRAIは年間700台程度。ちなみに、今年の後半に登場予定の新型MIRAIは、その初代の生産能力の10倍に増やすとトヨタは明かしている。

思ったように人気が出ない理由に、車両の価格が高い点と、水素ステーションなどのインフラが整っていない点も挙げられる。また、あまり格好よくないからだとも言えるだろう。しかし、自動車業界のFCVに対する考え方も変わって近い将来、他のメーカーも続くようだ。なお、MIRAIとクラリティはいずれもV2Hに接続できる。

災害が起きて電源を完全に喪失した際、どう対応すればいいのか? 一般的に、災害時に電気の復旧にかかる時間は24時間と言われているが、昨年10月の超大型台風のとき、千葉県では復旧にかなりの日数を要した。照明も必要だし、食糧だって温めたい。携帯電話の充電でさえ、人々は長い列を作って順番を待たなければならなかった。そのような状況下では、“動く電源ソース”が必要だ。非常電源となるEV系車両があれば、所有者のみならず、周囲の人も助けることができる。

日本では、これからも大きな自然災害が起きると予想されている。そうした災害時に役立つ車両に対して、単に二酸化炭素(CO2)を減らすという意味での補助金だけでなく、緊急時に提供・協力するのを前提に補助金を出すとか、減税するとかの政策を自治体が取れば、「高額だから」と買い控えている人もEV系のクルマを選ぶようになるのではないか。そういう視点で、各メーカーが国や自治体と手を結んでいくことも可能だろう。V2Hにも補助金を出す、あるいは減税するといった、選択肢があってもいいかもしれない。

日本では常に地震や台風、水害、土砂崩れなどの自然災害が起きてきたし、世界各地でも未曾有の災害が生じている。だからこそ国内外を問わず、カーメーカーには「災害対策車」を作ってほしい。今後、PHEVやFCVといった電動車両に非常時用の機能が装備されるよう願いたい。


ピーター・ライオン◎モータージャーナリスト。西オーストラリア州大学政治学部 日本研究科卒。1983年に奨学生として慶應義塾大学に留学。Forbes、Car and Driver(米)、Auto Express(英)、Quattroruote(伊)などへ寄稿多数。ワールド・カー・アワード賞会長のほか、日本カー・オブ・ザ・イヤー賞選考委員を務めている。

文=ピーター・ライオン

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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