来るか、第二波 届くか? 厚労省x民間「1億人アプリ」

「COVID-19 Radar Japan」から

新型コロナウイルスに関して、東京での第二波到来が懸念されている。

この新型コロナに関する記事の中で世界で6千万回以上読まれ、40以上の言語に翻訳されている記事がある。米国の起業家でジャーナリストのトーマス・プエヨ氏による、「ハンマーとダンス」だ。

プエヨ氏は、ロックダウンなどの強力な対策を「ハンマー」、ハンマーで叩いた後のウイルスとの共存状態を「ダンス」と定義し、カンフル剤としての「ハンマー」は重要だが、その後の「ダンス」こそがもっと肝心とする。「ダンス期」には人同士の接触を60%以上減らす必要があるという。

今はさしずめ、いったんこの「ダンス」期に入ったといえる日本だが、濃厚接触者を「逆算」で特定し、隔離することが徹底できるかどうかこそが、サステナブルに闘うための基本戦略であることはいうまでもない。


「コロナウィルス感染者は他の人をどのように感染させるか」を示したグラフ(Tomas Pueyo)

しかし同時に問題になるのは、接触者特定の「手間」だ。ジョンズ・ホプキンス大の計画によれば、米国では接触者追跡担当者10万人が必要という。30万人とする計算方法もある。

「手動」ではかくも気の遠くなる追跡、確認プロセスをテクノロジーで可能にしようと、世界的に起きたのが「接触者確認(追跡)アプリ」開発の動きだ。そして日本で6月19日に公開された「COCOA(COVID-19 Contact Confirming Application)」のアプリの元になっているオープンソースコードを作成したのは、有志エンジニアによるオープンソースプロジェクト「COVID-19 Radar Japan」だ。

菅義偉官房長官が2020年6月16日の記者会見で、厚労省クラスター対策班が率いる「接触確認アプリ」について、「開発には有志の国民によるオープンソースコミュニティーが携わっていた」と話したことは、日本における官民連携の新しいあり方を予感させた。また、彼らが厚労省からの「発注」ではなく、厚労省への提案の形で公式アプリ実装に漕ぎつけた点も、旧来の常識からの劇的なシフトといえそうだ。

Forbes JAPANでは、このオープンソースコミュニティー「COVID-19 Radar Japan」のコアメンバー4人に話を聞いた。Forbes JAPAN「30 UNDER 30 JAPAN 2019」受賞者であり、マイクロソフト社で開発者リレーションを担当する安田クリスチーナ、「デプロイ王子」として業界に知られる廣瀬一海、デザイナーの松本典子、そしてUXデザインのプロフェッショナルである児玉哲彦である。


遅れて来たApple+Googleの「1国1アプリ」発表


まず、ここまでのストーリーを時系列で整理しておこう。

「接触者確認アプリ」は3月末から4月にかけて、日本各地でバラバラに開発されていた。「Code for JAPAN」や楽天など民間企業も、シンガポールですでに実装済みだったBluetoothを使ったアプリ「TraceTogether」をベースに開発を進めていた。

「COVID-19 Radar Japan」の廣瀬、松本も初期からオープンソース化し、シンガポールの技術者とも連絡を取り合いながら開発を始めていた。政府から認証がもらえるようにさまざまな折衝を重ねながら、他のグループと互換性についての話し合いもしていた。


廣瀬一海氏

実は彼らのアプリ自体は、4月末にできて既にデモをしていたという。

だがコミュニティーには企業主体がないから、使ってもらうための運営体制が別途必要だった。たとえば運用開始後、ユーザーから問い合せがあってもコミュニティーではサポートセンター機能は担えない。ほかにもさまざまな運用コストを調達する必要があった。

その頃の安田と廣瀬は、あたかもスタートアップ企業が投資家回りをするかのように支援先を求めて企業を回った。だがいくつもの企業の門を叩いて「CSR的な観点からでも協力してもらえないか」と提案しても、投資の話になると「アプリで収集した医療情報を使わせてもらえるのか」「うちが参加するメリットは?」といった具合で、らちがあかない。


安田クリスチーナ氏

アプリは動くのに出せない。彼らは苦しんでいた。
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取材・編集=石井節子

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