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ITが「生活に流れ込んで」20年。今こそ生活者主体の技術を


やはりUXデザイナーとしてコミュニティに参加した児玉は、2003年、i-modeの普及で日本が世界に先んじて携帯からインターネットを使うようになった際、「PCで人をデスクに縛るのではない、生活者主体、技術は脇役、という社会が本当に実装されることを予感した」という。


児玉哲彦氏

そして迎えた新型コロナ時代。「日常の行動を変える」必要がある今こそ、モバイル技術で社会を変えることができると考え、コミュニティに身を投じた。

「携帯がインターネットにつながり出してからの20年間で、スマホが普及して社会インフラとして利用できるまでになった、そういう社会変容があってこその接触確認技術、と感じます。つまり技術的な文脈、歴史的な経緯からいえば、今回のアプリの誕生は必然だったんですよね」

パンデミック解決の柱は、技術の「透明性」


そして、エンジニアの廣瀬。実は彼には日本医師会での研究員のキャリアがあり、医療・介護ソフトウェアの開発経験もある。医療系の知識があるエンジニアの人口は少ない。それもあって彼は、今回の新型コロナ感染拡大の初期の頃から「自分にできることがないか」を考えていたという。そして「自粛」によってコミュニケーションが断たれ、どこで誰が亡くなっているかもわからない時代に、テクノロジーが役に立つ可能性があれば、とコーディングを始めた。

開発初期からオープンソース化を選択したことにも、理由があった。廣瀬は、日本医師会での経験から、医療に供するソフトウェアの利用許諾、透明性担保や第三者検証のしやすさへのこだわりがあったのだ。

これから始まるのは「テクノロジーによる未知との戦い」


実は今回、Appleが決断した大きな実装があるという。旧来はiOSの仕様上、スリープモードでは電波送信ができなかった点を解消したのだ。

廣瀬は言う。「だからこそ接触検知ができるようになったんですが、テクノロジーで社会問題を解決する、そんなパラダイムチェンジを可能にしたんですよね。そして、当然ながら公衆衛生史上、人類がスマートフォンでパンデミックと対抗するのは初めてです。僕はここからが本当の未知との戦いが始まると思っています」

そして、官民連携はこれから日本でもっと重要になってくる、ともいう。

「今回、日本政府にテックチームができたのも、民間から感染者アプリ開発の動きが出てきたからです。そして何よりも注目すべきは、われわれのこのアプリが、政府の『HER-SYS(ハーシス、新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)』と直接つながっていることではないでしょうか。HER-SYSを介した官民連携の成果でもあるこのアプリが、日本のヘルス分野のデジタル化、そして新型コロナ終息への貢献の1パーツとして真に役立ってほしい。そう願っています」

だが、国民の6割である6000〜7000万人もの、しかも技術的なリテラシーレベルが千差万別な人たちにこのアプリを理解してもらい、インストールさせる、というミッションのバーは高い。今後が実は一番難しいフェーズに入る、ともメンバーは予測する。

今後について、安田はこうも言う。「Google、AppleのAPIに依存している開発背景がある中、API自体が超速でアップデートされていますから、それに合わせての改善は必務。厚労省さんからの要望も多い、保健所運用からのフィードバックの反映も必要。そしてもちろん、今後は国民からのフィードバックが何よりも大切。すべてはこれからです」

ダウンロードも登録も「ユーザー側の意思」


実は今回のアプリ開発には、メンバー共通の明確な「意思(ウィル)」の存在があった。「トップダウンでなく、市民1人1人がオーナーシップを持って行動するインフラを実装したい」というものだ。児玉は「そのウィルの縮図が、まさにこのアプリです」と言う。

アプリ内での「体験」、情報の取得も入力もすべてオプトイン(ユーザーの同意)があってこそ。あくまでも強制力はなく、自分たちの意思で決めて使っていくことを前提としていたアプリが誕生したのだ。

「行動変容」は、他人のために起こすもの


廣瀬は、今回厚労省が発表した「行動変容」は実は「他人のため」だと言う。「ワクチンができるまでの間の感染管理を考えるとき、『大事な誰かのためにアプリを入れられるかどうか』こそが重要です。それができなければ誰も守れない。でも僕は、気遣いの国、日本であれば、6割は達成できると信じています」。

安田も言う。「無症状であっても『自分は陽性かもしれない』と気づけるメリットはもちろんありますが、このアプリでは、積極的疫学調査の観点で期待されていることのすべてはカバーできない。でも二次拡散防止をし、他の人に迷惑をかけないことには確実につながります。1人の『意思』が別の誰かを助けるという点で、これはわれわれ開発者や国のアプリではありません。究極の『シチズン・アプリ』なんです」。

今回の接触者確認アプリが「1億数千万人のアプリ」として国民に主体的に受け入れられるかどうか。同時代のシチズンの1人として自らのオーナーシップを静かに問いながら、筆者も注視していきたい。

取材・編集=石井節子

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