90年代後半、ダイアン・フォン・ファステンバーグの息子のアレクサンダーが、誕生間もない出会い系サイトに注目するよう、ディラーにすすめた。二人は共に、デート相手をオンラインで見つける時代がくると確信。ほどなく、ダラスを本拠とするマッチ・ドット・コムを見つけると、同社への投資を開始した。
その後、同社は、同業のティンダーやヒンジを吸収し「マッチ・グループ」へ進化。最終的に、彼らの投資額は16億ドルであったのに対し、その持ち分は、現在170億ドル相当の価値になっている。
ディラーはまた、旅行も代理店からオンライン予約に移行すると予想した。99年、ホテルズ・ドット・コムを2億4500万ドルで買収し、2001年にはマイクロソフトから、15億ドルでエクスペディアの支配権を獲得。契約が完了したのは9.11テロの直後であったが、「ひとは生きている限り旅をするものだ」と腹をくくり、我が身を説き伏せてサインした。そんな彼の目論見通り、エクスペディアはいまや、時価総額200億ドルの優良企業だ。
ディラーは、IACの日常業務の多くを、若い重役陣に委譲してきた。彼らもまたディラーの先見力をしっかりと受け継ぎ、確かな成果を上げている。そしていま、ディラーは新たな賭けに出ようとしている。
成長するために、成功を手放す
現在、IACの売り上げの大半は、マッチ・グループと、住宅修繕などのために便利屋をネット仲介するサービス「ANGIホームサービス」に支えられている。なんと、ディラーは、その両者を手放そうというのだ。
「IACは、これまでも、リニューアルするために変化を続けてきた」と、ディラーは独自の哲学を披露する。
「マッチ・グループの分離も、IACが新しいことを創造するための一過程にすぎない。我々は、再度成長するために、いったん規模を縮小するだけさ」
かつて、ハリウッドでの栄光を置き去ったように、彼は再び、自分の成功の証しとも言える事業を切り離し、新しい旅に出る。彼の目指すところは、誰も選ばない道の先にあるのだろう。「私が、人に笑われない選択をしたなら、それは何か間違っているときだ」。
自分の直観を信じ、時代の一歩先を行く。決して立ち止まらず、前へ前へ。そんな彼の背中を見て、多くの一流経営者たちは育ったのだ。
バリー・ディラー◎実業家。エクスペディア会長。チケットマスター、ティンダーなどのマッチ・グループを運営するインターネット複合企業「IAC/インタラクティブコープ」の会長でもある。過去には、パラマウント映画や20世紀フォックスの会長兼CEOを歴任し、テレビ、映画製作者として活躍。企業経営の才能を開花させ、IACを時価総額200億ドルの企業に育てる。幅広い人脈をもち、メンターとしても世界的な企業のCEOを数多く輩出する。