ビジネス

2020.06.26 12:00

直観を信じ、時代を先読む。名経営者バリー・ディラーのビジネス手腕


大きな転機となったのは、のちの妻となる、ダイアン・フォン・ファステンバーグからの情報だ。デザイナーの彼女は、テレビショッピングの専門チャンネル「QVC」で、自分のスカーフが飛ぶように売れたことをディラーに伝えた。彼女の話はディラーに衝撃を与える。


バリー・ディラーと妻のダイアン・フォン・ファステンバーグ(Gary Gershoff / WireImage / by gettyimages)

長くハリウッドにいた彼にとって、視聴者はドラマを見せるための相手にすぎなかった。しかし、QVCでは、テレビの前にいる彼らが、電話やインターネットを通じてやり取りできる商売相手に変わったのだ。
 
92年、2500万ドルを投じてQVCの経営権を獲得したディラーに、かつての同僚であり親友のデビッド・ゲフィン(ゲフィン・レコード創業者、ドリームワークス共同創業者)は驚愕した。その一方で、ゲフィンはディラーをこう評す。

「バリーは常にプランを持っている。私は、彼が成功する姿しか見たことがない」
 
その言葉通り、テレビ映画の製作者だったディラーは企業買収と経営において躍進を遂げる。94年にQVCを手放すものの、翌年、シルバー・ブロードキャスティングを買収。これがIACの前身となる。以来、彼は、株主のために年率14%のリターンを生み出してきた。この数字はバークシャー・ハザウェイやS&P500種株価指数、そしてハリウッドの大手のディズニー、CBSなどを超える。また、彼はこれまでに10の上場企業をスピンオフさせてきた。現在、その時価総額は合わせて700億ドルに上る。だが、彼の自分自身への評価は辛口だ。

「私は会社をひとつも創業していない。機を見るに敏な優良経営者であるだけだ。1社でも創業していたらと思うよ」
 
何十年もディラーの仕事ぶりを追ってきた投資家のマリオ・ガベリも言う。

「彼はメディア企業の大物たちの中で、早くからデジタル世界の動きを理解していた。そして、それを捉えることに成功した」
 
すべてのトレンドに先んじて(時にはそれに逆らって)、大きなバクチを打つ。時代を先読む力。それこそが、彼のビジネス手腕の最たるものである。
 
ここでいくつか、ディラーの先見をあらわす例を紹介しよう。
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文=アントワーヌ・ガラ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=町田敦夫 編集=山田恭子

この記事は 「Forbes JAPAN 4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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