米政府が新型コロナウイルス対策にすでに何兆ドルも費やしているのを踏まえると、これもありえない額と思えるかもしれない。ただ、ノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマンも言うように、米国の借り入れコストがこれほど低くなることは二度とないのではないだろうか。
にもかかわらず、トランプ時代の共和党は、新たなイノベーションの活力を生み出すよりも、中国から雇用と富を取り戻すことに執心している。こうした戦略をとっているために、トランプ政権はそのスローガンとは裏腹に、中国を再び偉大にしようとしているのだ。
そんなことはない、と思うかもしれない。習指導部は5000億ドル(約53兆円)超にのぼる中国から米国への輸出品に対する関税を喜んでいない。トランプは世界のファーウェイ(華為技術)を標的にしているし、中国本土のほかの企業数十社もブラックリストに載せ、ニューヨーク証券取引所に上場するのを難しくしている。中国政府はトランプからツイッターで格好の標的にされたり、自分のひどい新型コロナ対応の責任転嫁をされたりするのを面白く思っていない。
だが、トランプのそのコロナ対応には、対中政策をなぞっているところがある。どちらも対症療法に終始し、根底に横たわる問題に切り込んでいない点だ。コロナ対応でも対中政策でも、彼は真の解決策よりもスピン(情報操作)や欺瞞、やってる感にいそしんできた。どちらも、まず間違いなく、5年後の米経済の立ち位置にとって望ましくない結果をもたらすだろう。
調査会社ガベカル・リサーチのダン・ワンは、米国は中国の政府や軍など各部門へのサプライヤーに打撃を与える制裁によって、中国のテック産業を抑え込む取り組みを拡大していると書いている。だが、トランプのホワイトハウスは、米国のイノベーションを再び活発にするためには何をやっているのだろうか。彼らのやり方は、対戦相手のタイヤをパンクさせることで車のレースに勝とうとするようなものだ。そうしたやり方でもきょうは勝てるかもしれないが、あしたになれば相手の車はもっと速くなっているだろう。
ダンカンの提唱する「2031年まで年8000億ドル(約86兆円)の投資」は、懸かっているものの大きさから言えば、一つの選択肢というよりもむしろ、中国に後れをとらないようにするために必要な支出だと言える。この8兆ドルを請求書の支払額と考えてはならない。そうではなく、米国が2位に転落するのを防ぐ唯一のものと考えるべきだ。