1985年で止まってしまっているトランプの思考様式では、この点を理解できないようだ。トランプの取り巻きは中国の産業政策「中国製造2025」を目の敵にしたが、習は今ではそれにほとんど言及しない。
中国政府は米国の関税におびえて、向こう5〜10年で技術覇権をめざす計画を棚上げした──。習はきっと、トランプの名代であるピーター・ナバロ大統領補佐官(通商担当)やラリー・クドロー国家経済会議(NEC)委員長にそう思い込ませることができて、ほくそ笑んでいるに違いない。実際には棚上げなどされていない。この取り組みは、「新しいインフラ(新基建)」と呼び方が変わっただけなのだ。
「中国を再び偉大にする」トランプ
ひるがえって、トランプのチームによる経済改革のやり方には、「新しい」ところ、イノベーティブなところがまったく見当たらない。この点では、習のチームにとっては、むしろトランプが再選してくれたほうが望ましいかもしれない。短期的には不愉快でも、習はトランプの米国よりも安定し、協力的な大国として中国を位置づけることができるからだ。
1980年代には、減税によって企業の研究開発(R&D)や大胆なリスクテイクへの投資が促されたかもしれないが、トランプ時代には、減税はせいぜい配当の支払いや自社株買いを活発にするだけだ。そして、これらは米国の独創性や競争力に磨きをかけるのにはほとんど役に立たない。
たしかに、新型コロナウイルス対策は、経済の活力や生産性を高めることよりも優先される。ただ、後者に関して、これまでに最も大規模な計画を打ち出しているのは、トランプの共和党ではなく、民主党のほうである。たとえば、チャールズ・シューマー上院院内総務は昨年11月、AIをはじめとする最先端分野に1000億ドル(約10兆7000億円)拠出する案を示している。
現時点で、軍事関連を除けば、そうした分野に米政府が割りあてている年間予算はおよそ10億ドル(約1070億円)にとどまる。習指導部が今後の見通しに自信を深めている理由を知りたければ、米政府予算のこのお粗末な規模ほどよい手がかりはないだろう。ただ、たとえトランプの共和党がシューマー案を支持していた(実際には支持していない)としても、それでもまだ十分ではない。
「仮に米国がR&D投資を向こう5年で1000億ドル、つまり2021年から毎年200億ドル(約2兆1000億円)積み増しても、中国はなおR&D投資でリードを保持することになる」とダンカンは指摘する。「米国は中国に対する優位を保っていきたいのなら、1000億ドルをはるかに上回る額を投資しなくてはならないだろう。幸い、米国にとってそれは難しいことではない」