「#BlackLivesMatter」は、今でこそ、全米で広がるデモによって日本でも知られる言葉になったが、オバマ政権時代にビヨンセが参加を表明するなど、以前から「警察暴力」に対抗するスローガンとして存在した。
着目すべきは、その段階で映画界の巨匠であるスピルバーグと、アカデミー賞ドキュメンタリー部門を受賞したアレックス・ギブニーが組んで、人種差別問題の大型ドキュメンタリーを製作していたことだ。
スピルバーグは娯楽映画だけでなく、アリス・ウォーカー原作の『カラーパープル』、奴隷を描いた『アミスタッド』で、このテーマに斬り込んできた。一方、アレックス・ギブニーは優れた社会派ドキュメンタリー監督として知られる。『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』『ストーリー・オブ・ウィキリークス〜正義と犯罪の狭間』からスティーブ・ジョブズの人間像に迫る作品まで多作である。近年では、国際的テロ組織アルカイダを描いたドラマシリーズを、huluで製作している。
こうした力のある製作者が「差別」という人間が抱えた大きな問題に挑戦する。市場が大きなアメリカゆえにできた番組であり、またニーズが高いテーマだからこそ成立したとも言えるだろう。
ディスカバリーのバックグラウンドには、総計約30万時間分のアーカイブがあり、毎年世界のディスカバリーで8000時間分の新番組が生まれ、ネットフリックスの約2倍規模の番組総数を保持しているという。Dplayの伸びが示すのは、ノンフィクションを見たいという期待だ。
「Dplayでは、『HATE~人はなぜ憎むのか~』のほかにも、新型コロナウイルスをテーマにした『パンデミック:COVID-19の真実』などの最新番組も配信しています。withコロナの時代に、エンタメやフィクションで泣いたり笑ったりはとても大切なのと同様に、行動変容にもつながるノンフィクションも極めて大事なのです。今、旅ができない中でディスカバリーを利用して感じることができるコンテンツが世界で配信されていますが、ノンフィクションの分野というのは、体験できない世界を体験できることも意味します」
※なおDplayでは、6月下旬より「差別なき世界を求めて」と題する特集にて#BlackLivesMatter運動を受け米国で制作された新番組を含む関連番組の無料配信を予定している。
専門チャンネルとしてノンフィクションの価値を知らしめたい
デービットは、ネットフリックスをはじめとした隆盛極めるSVoD各社を、ライバルとは違う視点で見ている。
デービット・マクドナルド|ディスカバリー・ジャパン代表 コンテンツへの熱い思いは、TV会議の画面越しからも伝わってきた。
「他社を含め、わたしたちの役目は世の中の変化に対して協力し合う関係です」
その意味を知るため少し同社の歴史を振り返る。1985年にアメリカで登場したディスカバリーチャンネルは、ケーブルテレビネットワーク企業だ。現在は220以上の国と地域で放送を行い、年間8000時間以上のオリジナル番組を放送する。1997年には日本でも放送を開始し、CS放送で『ディスカバリーチャンネル』『アニマルプラネット』(2000年から)などが展開された。そして2019年に動画配信サービス「Dplay」をまずAVOD(広告無料型動画配信)で開始。2020年に入りSVoD(定額制動画配信)としてスタートさせた。