人種差別の抗議運動に呼応? スパイク・リー監督新作のメッセージとは

Netflix映画『ザ・ファイブ・ブラッズ』独占配信中

あらためて、「配信」というメディアが持つ機動性に、いたく気付かされた作品だった。6月12日からネットフリックスで世界同時配信されているスパイク・リー監督の「ザ・ファイブ・ブラッズ」。年老いたベトナム戦争の帰還兵4人が、半世紀ぶりにホーチミンシティに集合して、戦死した隊長の遺骨収集のためにジャングルへと分け入っていくという物語だ。

初期の代表作「ドゥ・ザ・ライトシング」(1989年)をはじめとして、アフリカ系アメリカ人に対する人種差別の問題を作品の核に据えてきたリー監督だが、この作品でもそれは堅持されており、冒頭から兵役を拒否したモハメド・アリをはじめ、マルコムXやメキシコ五輪でのブラックパワー・サリュートなどのドキュメンタリー映像が流される。

続いて、1960年代後半からから70年代にかけてのニュースフィルムが重ねられ、人種差別とベトナム戦争という、この作品のメインテーマが提示される。社会的視点をつねに欠かさない監督らしいオープニングだが、劇中でも度々このような「現実」の映像がインサートされていく。さらに驚くことに、「Black Lives Matter」と掲げられたシーンまで登場する。

ジョージ・フロイドさんが、5月25日にミネソタ州ミネアポリスで白人警官によって死亡させられた事件をきっかけに、人種差別に対する抗議活動が全米に広がっているが、この「ザ・ファイブ・ブラッズ」は、まさにそのさなかに配信がスタートしたことになる。まるで前もって準備されてでもいたかのように。

多くの映画会社が企画に二の足を


もちろん、この作品は「Black Lives Matter」の抗議活動を受けて製作されたわけではない。もともとは、2013年にダニー・ビルソンとポール・デ・メオという2人が書きあげた「The Last Tour」というタイトルの脚本があり、その時点では主人公は白人のベトナム帰還兵だった。実は当初は、同じくベトナム戦争を描いた「プラトーン」(1986年)のオリバー・ストーン監督が、映画化を図ったが、実現には至らなかった。

2017年、リー監督がこの脚本を読み、「多くのアフリカ系アメリカ人がベトナム戦争に従軍していたにもかかわらず、そのことに焦点を当てた作品がほとんどない」という思いから、主人公をアフリカ系のアメリカ人に変更するかたちで改稿、映画化が再スタートした。
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文=稲垣伸寿

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