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シネマ未来鏡


アカデミー賞の作品賞や監督賞にもノミネートされた「ブラック・クランズマン」(2018年)と同時期に企画は進行していたが、人種差別問題を扱う内容からか、多くの映画会社が二の足を踏み、リー監督自身も後に「もしかしたら、この映画をつくることはできなかったかもしれない」と語っているように、映画製作は暗礁に乗り上げていた。

そこに手を差し伸べたのがネットフリックスだった。マーテイン・スコセッシ監督の「アイリッシュマン」(2019年)を、巨額の製作費と3時間半にも及ぶ上映時間を理由として大手の映画会社が手を引いた後に引き受けたのと同様に、この「ザ・ファイブ・ブラッズ」も、1兆4000億円(2019年)の製作費を持つ「世界一の映画製作会社」によって、映画化が実現したのだ。

配信が持つ機動性と、興行収入などに左右されない企画の選択、それに今回のフロイドさんの事件に対しても「沈黙することは、共犯と同じ」というメッセージをいち早く発信した進取の企業精神、これらを兼ね備えたネットフリックスの存在は、いまや誰も無視できないものとなっている。

老ベトナム帰還兵たちよる「宝探し」


「ザ・ファイブ・ブラッズ」の劇中に盛り込まれる人種差別に対するメッセージは苛烈だ。例えば、劇中にはこんな回想シーンがある。ベトナム戦争中、ハノイからアフリカ系アメリカ人兵士に向け呼びかけられたラジオ放送の内容だ。

「メンフィスで白人がキング牧師を暗殺しました。牧師は過酷な人種差別と闘った英雄でした。ベトナム戦争にも反対でした。アメリカ政府は暴動の鎮圧にのべ60万人の部隊を派遣しましした。皆さんのブラザーやシスターが100以上の都市で怒っています。同胞が殺されているのに、皆さんは異国で私たちと戦っている」

もちろん、この部分はリー監督が元々の脚本に改稿を施した部分だと思われるが、現在、アメリカで広がっているジョージ・フロイドさんの事件に対する抗議行動を、どうしても思い浮かべてしまう。続けて、ハノイからの放送はこうも伝える。

「アメリカの人口におけるアフリカ系アメリカ人の割合は11%なのに、ベトナム派遣軍では32%にも及ぶ。白人のアメリカに尽くすのは正しいこと? 何が起きているかも知らずに戦場で命を落とす。そんなバカなことってある?」

劇中には、いかにもリー監督らしい諧謔に富んだ辛辣な表現も数多く登場する。老ベトナム帰還兵たちが、ひさしぶりに訪れたかつて戦った地では、現地の人間があの戦争のことを「ベトナム戦争」ではなく、「アメリカ戦争」と呼んでいる事実を突きつけられる。

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文=稲垣伸寿

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