進歩への猛烈な抵抗の歴史
こういった進歩の多くは猛烈な抵抗にあう。ニューオリンズの一等地であるカナル・ストリートにあったクレッセントシティ・ホワイトリーグを讃えるオベリスクが1989年に除去されたときがそうだった。(白人至上主義の秘密結社である)クークラックスクランの(元最高幹部で)偉大な魔法使いのデイヴィッド・デュークの支持者が訴訟を率いて成功させ、クランが数多くの行進をスタートさせた史跡が市内の目につく場所に残るようにした。
白人至上主義の秘密結社「クークラックスクラン」のメンバー。インディアナ州マディソン市で(GettyImages)
1993年、オベリスクは元の場所から1ブロック離れた、前よりも目立たない場所に設置された。
2014年、ジャズミュージシャンのウィントン・マルサリスは、当時の(ニューオリンズ)市長だった白人のミッチ・ランドリューに、そびえ立つリー将軍の彫像を見るよう求めた。「私の目を通して見るのを助けてあげましょう。彼は誰ですか? 彼は何を代表しているのですか? そして、この像はニューオリンズでもっとも重要な場所にありますが、この場所が反映しているのは、過去の市民、現在の市民、未来の市民の誰なのですか?」
ウィントン・マルサリス(Getty Images)
その1年後、市長は南軍(連合国)を讃える他の記念碑と一緒に彫像を撤去することを市に提案した。その結果、市職員らは脅され、彫像撤去の仕事を引き受けた業者は、殺害の脅迫を受けて撤退した。
彫像撤去の遅れに対して募った市民のフラストレーションは定期的に爆発し、あからさまな衝突になった。
2016年、アフリカ系アメリカ人が率いる社会活動団体のテイク・ゼム・ダウンNOLAが、フレンチクォーターの中心地にある(第7代大統領)アンドリュー・ジャクソンの像の前で抗議運動を始めた。
アンドリュー・ジャクソンの像はミズーリ州カンザスシティやワシントンDCラファイエット・スクウェアにもある(写真は後者のもの。Getty Images)
ジャクソンは、アメリカ先住民と戦い、奴隷を所有して売買し、1830年にインディアン強制移住法に署名してチェロキー族、チョクトー族、セミノール族その他の南東部に在住していた先住民族から土地を奪った。ジャクソン・スクエアになだれ込んだ数百人のデモ参加者が見出したのは、ジャクソンの像がバリケードの陰に隠され、警察から守られていた光景だった。その間にも、デモに反対する抗議グループが活動家たちを妨害しようとしていた。
デイヴィッド・デューク本人がジャクソン・スクエアに現れると、言い争いが起き、小競り合いの最中に警察が7人を逮捕した。その中には、デュークの手からメガホンを奪い取った白髪の女性も含まれていた。
彫像はそのまま残されたが、デュークの支持者らは崩壊の運命にあることを案じたようだ。ある者は、デュークのウェブサイトに「戦利品は勝者のもの(慣用句。戦争や競争に勝ったものが財や権力を得るという意味)であり、征服された者に屈辱を与える権利も勝者のものだ。そのもっとも象徴的な手段のひとつが、敗者側の彫像や記念碑を破壊することだ」というコメントを書いた。
以上、『それを、真の名で呼ぶならば:危機の時代と言葉の力』(レベッカ・ソルニット著、渡辺由佳里訳、2020年、岩波書店刊)「記念碑をめぐる闘い」より一部抜粋(167‐172頁)
渡辺由佳里◎エッセイスト/洋書書評家/翻訳家。1995年よりアメリカのボストン近郊在住。新刊の英語の本を紹介するブログ「洋書ファンクラブ」主宰。小説『ノーティアーズ』(新潮社)でデビュー。 『ジャンル別 洋書ベスト500』(コスモピア)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)など著書多数。翻訳書には糸井重里氏監修の『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経ビジネス人文庫)、レベッカ・ソルニット著『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)など。最新刊は『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)。