味も空気も今っぽい。パリの「家ごはん」に出会える9区のビストロ

ウィレット(Willette)

店の前を通りかかると、いつもテラス席が賑わっていて、居心地の良さそうな印象を受けていた。

「ウィレット(Willette)」のあるトレヴィス通りには、レストランが軒を連ね、暖かい季節は特にどの店もテーブルは人で埋まっていたが、なぜか私はこの店に惹かれていた。

何度か見かけたランチの黒板メニューは、前菜もメインもともに2品ずつ書かれていて、どちらもうち1つは野菜だけのプレートのようだった。ヘルシーが売りの店には、「味気ない料理かもしれない」という先入観が頭をもたげて敬遠してしまうのだが、ウィレットは、ベジタリアンではないほうの料理がソーセージとレンズ豆のようなクラシックな組み合わせで、興味が湧いた。


リピートしているソーセージ。いつもレンズ豆と

ランチタイム後の片付けをしているところに通りかかったとき、ドアが開けっ放しになっている入り口から、店内のスタッフに声をかけ、訊ねてみた。メニューは黒板だけなのか、夜も同じものなのか。すると、黒板以外のメニューもあって、夜はまた別になるとのことだった。その応対はとても感じの良いものだった。

観光客向けエリアに変化


ウィレットのあるグラン・ブールヴァール駅から少し北に上がった9区のこのエリアは、数年前までほとんど私が足を向けることがなかった場所だ。

1896年創業のブラッスリー「ブイヨン・シャルティエ」のあるフォーブール・モンマルトル通りを真ん中に、左手には1836年建立のアーケード街パッサージュ・ジュフロワが走り、右手にはベル・エポックに人気を博し、いまなお現役の劇場「フォリー・ベルジェール」が構える。

19世紀末から20世紀初頭に繁栄した歴史ある一画で、オペラ座にも近く、手頃なホテルもひしめくことから、ツーリストの姿が多い地区でもあるが、ゆえに、観光客目当ての飲食店も少なくなく、また表通りから1本入ると、若干の寂れた空気も漂う。

それが3、4年前からだろうか。少しずつ様子が変わってきた。 畜産農家から直接買い付け、店内で数週間熟成させた肉を看板料理に据えたステーキ店や、角地に窓で囲まれたカフェを備えたおしゃれなホテルがオープンし、わざわざ行きたい店ができ始めたのだ。

ウィレットのオープンは昨年の3月28日。劇場から徒歩1分ほどで、それもあって夜は18時から営業を始め、観劇前の食事や、仕事帰りにアペリティフを楽しむ人が早くからやって来る。
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文・写真=川村明子

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