ビジネス

2020.06.22

新型コロナウイルス感染拡大で本領発揮した「平時のメッセージ」


ウエアラブルIoT企業がマスク製造に着手できた理由


ミツフジは1956年に京都府城陽市で創業した繊維業の会社である。

2014年に三寺歩氏が跡を継ぐために東京の会社を辞めて戻ってきた時はすでに倒産寸前で、工場やオフィスはなくなっていた。しかし、導電性の高い銀メッキ繊維と社内に伝わる独自の織りによって、ウエアラブルIoT企業に変身。生体データを正確に取得・数値化できる「hamon」を製造販売し、今ではグローバル企業である。

業態を変身させるきっかけになったのは、やはり「聞く」という行為だ。

同社の武器である銀メッキ繊維は、消臭靴下などの抗菌防臭に使用されていた。これを少量ながら購入する複数の電機メーカーがあった。売り上げが小さいのでミツフジ社内で気に留める者はいなかったが、社長に就任した三寺氏が一社一社訪ねて歩いた。「何に使われているのですか?」と。これら電機メーカーが着目していたのは、銀メッキ繊維の導電性だった。これが、ウエアラブルIoTへの発想へと飛躍した。

そしてhamonのコンセプトとして打ち出された言葉が、「生体情報で、人間の未知を編みとく」である。人は自分のことは意外に見えていない。生体データを見えるようにすることで、自分を守るための「未来の予知」に使ってほしいというメッセージだ。

実際、2015年にヨーロッパの医療会社は「てんかんの予知」を実現させるため、ミツフジの銀メッキ繊維を選んで共同開発を行っている。

ミツフジは福島県川俣町に工場を新設。川俣町は県内でも人口減少率が高く、福島第一原発事故で避難区域に指定された時期がある。農業は風評被害にさらされていた。同社は工場設立の経緯をこう言っている。

「工場の場所を探していた時に行政から紹介を受けました。川俣町はもともと絹産業で栄えた繊維産地でもあり、東日本大震災により甚大な被害を受けた場所でもあります。ミツフジも西陣織の帯工場を祖業としており、川俣町の繊維の復興の一助になればと思いました」

この復興のシンボルとなる工場で、衛生マスク「hamon AGマスク」の開発製造が始まった。なぜマスクだったのか。同社はこう答える。

「1月末~2月中旬くらいに複数の法人のお客さまからマスクを作れないかという打診が来始め、非常にひっ迫した状況であることを理解し、試作開発を始めました。弊社はあくまでウェアラブル製品の開発を行う企業ですが、お客様がお困りになられている現状を伺い、自分たちの技術を用いてできる限りのご対応をしたいと考えたのがきっかけです」

ミツフジもエネフォレストも、平時に顧客に訴えていたメッセージが、危機の時に効果を表したといえるだろう。会社が訴え続けていることは一体、何だろうか? そこを自問自答することが、顧客の助けとなり、困った時に「頼れる企業」として真っ先に思い出してもらえる。この信頼こそが企業価値となる。

ウェブ電通報「新型コロナウイルス感染拡大で本領発揮した「平時のメッセージ」」より転載

文=藤吉雅春

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