経済・社会

2020.06.21 12:00

人種差別抗議デモで広がる銅像撤去 バンクシーの故郷・英ブリストルの意外な反応


アートが盛んなブリストルには街中にグラフィティがある(Getty Images)

公共物や私有財産を故意に破壊したり落書きしたりする行為は「ヴァンダリズム」と呼ばれる。落書きや破壊行為の蔓延は治安の乱れを象徴し、世界各地で深刻な社会問題となっているが、今回のケースについてはどのように考えるべきだろうか。

ブリストルのリース市長は「犯罪を大目に見ることはできません。 私は政治的なリーダーですから。街には秩序が必要です」と前置きしつつも、抗議者たちが「暴力的に(thuggish)」に行動したという意見を否定している。

「ヴィクトリア女王やネプチューン像を壊した者はいませんでした。 これは思慮のない暴力ではなかったということです。考えに基づいた意図的な行動でした。コルストンに焦点が当てられていたことには、つまり、意味と目的があったのです」と分析し、今回の銅像撤去は「歴史という詩の1片」であったと英紙ガーディアンに語った。

「世界は矛盾や理解が困難な真実で満ちています。私は秩序を守っていかねばならないと同時に、台座から銅像が撤去されたことを悲しむつもりはないと正直に言わねばなりません」

落書きをグラフィティ文化として観光にも活かし、バンクシーという世界的なアーティストを生んだブリストルには、今回の銅像撤去という出来事を「恥ずべき行為」として片付けるのではなく、ひとつのアートへと昇華させる成熟した文化がある。バンクシーは今回の銅像撤去に関して、公式インスタグラムにイラストを投稿した。


「銅像がなくなって寂しい人も、寂しくない人も納得するアイデアを教えよう。銅像を水の中から引きずり出し、台座に戻し、ケーブルを首に結び、抗議者の等身大の銅像も置こう。これでみんな幸せ」

バンクシーが公開したイラストの中では、本来であれば非難されるべき破壊行為がそれ自体、銅像という「アート」の一部へと変貌している。バンクシーはこれまでにも弱い立場の人々の政治的抗議を代弁する作品を発表する手段としてヴァンダリズムを用いてきたが、今回のイラストにもそのようなバンクシー流のウィットが感じられる(バンクシー作品を写真で振り返る記事はこちら)。

銅像の撤去を求める動きはこれまでにアメリカ、フランス、ベルギーでも起きており、今後も広がることが予想される。「撤去が保存か」という硬直した議論に陥ることなく、銅像が想起させる歴史と街の状況を鑑みて前向きなアイデアが出されたブリストルの例が、今後の運動の展開に良い影響を与えることを期待したい。

文=渡邊雄介

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