ビジネス

2020.06.24

経営の難しさに直面したときに力を貸してくれた「スクラム」手法

各界のCEOが読むべき一冊をすすめるForbes JAPAN本誌の連載、「CEO’S BOOKSHELF」。今回は、アクセラテクノロジ・代表取締役社長 博士(情報科学)の進藤達也が「スクラム」を紹介する。


「スクラム」と聞くと、ラグビー選手たちが押し合う熱い姿を思い浮かべる人も多いでしょう。“チームが一丸となって取り組む”ところが似ているからか、IT業界では、ユーザ視点で製品を迅速に開発する手法として「スクラム」が知られており、広く活用されています。
 
ソフトアウェアは従来、製品の完成に向けて一つひとつの工程を完了しながら進めるウォーターフォールという方法で作られてきました。しかし、長い工期が必要なこの方法では、完成時のニーズとズレが生じることもあり、これまでにない新製品やサービスを実現するには不向きです。
 
そこで誕生したのが、スクラムに代表されるアジャイル開発です。少人数で、柔軟に計画を調整しながら開発するスクラムは、変化や不確実性への適応性が高く、宇宙事業から教育現場、貧困問題にも立ち向かえる「新しい働き方」と言われています。
 
IT技術者だった私が、アクセラテクノロジを設立したのは2001年。仲間と昼夜仕事に邁進したかいもあり、数年後、軌道に乗り始めました。しかし同時に、経営の難しさに直面したのです。社員が増えれば、創業時の気心の知れた間柄ばかりとはいきません。上司は、新しいメンバーに適切に物事を伝えられず、業務が滞ることが頻発。人間関係までも悪化し、社内に険悪な雰囲気がたちこめました。これでは、仕事どころではありません。

そこで、製品開発にスクラムを導入。業務全体を、“スプリント”と呼ぶ1〜2週間程度の期間に分解し、その工程に優先順位をつけました。優先すべき業務が明確になり、社員は迷わずに日々の業務に集中できるようなりました。重要なのは、スプリントごとにやり方を改善し、優先度を見直すこと。これを繰り返し行うことで、一年後、驚くほどの成果を得ることができました。嬉しいことに、社内には溢れるほどの活気も戻っていました。続いて導入した技術出身者ばかりの営業部も、半年ほどで「お客様に響くチーム」に進化し、現在では全社でスクラム経営を実践しています。
 
いま、当社では、全社員が本書を手元に置いて仕事をしています。困難にぶつかったときは、この本を読み返し、迷わず、道を進みます。その結果、“残業ゼロ”も実現できましたから、原書のサブタイトルである「半分の時間で2倍の仕事をする」は、決して大げさな一節ではないでしょう。
 
著者によれば、スクラムの起源は、トヨタ生産方式や日本生まれの経営手法「ナレッジマネジメント」にあるようです。チーム力=企業力である日本企業とは、きっと相性がいいはずです。


しんどう・たつや◎1983年早稲田大学理工学部卒業後、富士通入社。米国スタンフォード客員研究員、早稲田大学博士学位(情報科学)取得、富士通ソフトウェア部門開発担当部長を経て、2001年、同社ベンチャー企業制度を活用して、アクセラテクノロジを設立。

構成=内田まさみ

この記事は 「Forbes JAPAN 5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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