ビジネス

2020.06.19

現役弁護士が「AI契約書レビュー」で挑む法務改革 開始1年で300社以上が導入

(左)LegalForce代表取締役CEOの角田 望、(右)代表取締役 共同創業者の小笠原匡隆

「企業法務」と聞くと、どのような仕事をイメージするだろうか。

多くの人は、企業の法令順守(コンプライアンス)を中心とした、会社を「守る」仕事のイメージを持っているかもしれない。しかし近年、海外企業との交渉において契約の不備がないよう働きかけたり、新しい市場の法制度作りを政府や省庁に促す「攻め」の法務の存在が重要視されている。

背景にあるのは、グローバル化と技術革新だ。紙文化が長い法曹界において、欧米を中心に「リーガルテック」と呼ばれる領域が勃興している。

そんななか、既に国内で300超の企業から愛用されるソフトウェアがある。AIで契約書をチェックし、リスクのある条文や抜け漏れを指摘するクラウド型契約書レビューソフトウェア「LegalForce」だ。

同ソフトウェアを提供するLegalForceを立ち上げたのは、企業法務を担当していた2人の現役弁護士。彼らが弁護士から起業に至った経緯や、LegalForceを通じて実現したい「法務の未来」を聞いた。

一瞬で契約書の「リスク」を判別。300超の企業で導入


「LegalForce」はAIをはじめとしたテクノロジーを活用し、契約書のレビューを数秒で行うソフトウェアだ。

書類をアップロードし、契約書のタイプと自社の立場を設定すると、リスクのある文章や抜け漏れを一瞬でチェック。修正例を表示してくれる。さらに、過去の契約書をデータベースとして蓄積することで、ナレッジ共有に活用することもできる。

現在、300社以上の企業で導入され、うち4割が上場企業。また、導入した企業の多くが、業務時間を30〜40%短縮することに成功しており、「契約書レビューのクオリティが向上した」実感を持っている企業はおよそ80%にのぼる。



代表取締役CEOの角田望氏は「スピードだけでなく、徹底的に拘ったプロダクトのクオリティが、LegalForceの何よりの強みだ」と自信を覗かせる。

2020年2月には、WiLなどの複数の投資家から約10億円の資金調達を実施。今後はグローバルを主戦場とする企業向けに、英文の契約書にも対応していくようアップデートを進めているという。

会社と同時に「法律事務所」を設立。新たなモデルを確立


LegalForceを下支えしているのは、開発専任の弁護士による最新の知見だ。これは、AIのみでレビューの基準を自動でアップデートすることが不可能なため、都度弁護士の知見に基づく「レクチャー」を必要とするため。しかし、法令改正が頻繁に起こる現代において、最新法令に準拠することは、非常に難易度が高い。

その問題点を解決すべく、LegalForceの創業者である角田望氏と小笠原匡隆氏が打ち出した一手が、法律事務所の創業だ。両氏はLegalForceの立ち上げと同時に、「法律事務所ZeLo」を創業。法律事務所ZeLoは、企業法務をこなすなか、LegalForceのヘビーユーザーとしてソフトウェアの開発に必要な汎用的な法的知見やソフトウェアの改善点をLegalForceにフィードバックしている。

最新の法令にも準拠できるクオリティの高さは、弁護士出身だからこそ生み出せる循環によって生み出されていたのだ。

「法律事務所ZeLoの役割は、単にソフトウェアのテストをしているだけではありません。LegalForceを実際に用いることで、テクノロジーと同居し、よりクオリティの高いリーガルサービスを提供する新しい法律事務所のモデルを作りたいと考えています」(小笠原)
次ページ > 法曹界のエリートが、キャリアを捨て起業した理由

文=半蔵門太郎 写真=小田駿一

ForbesBrandVoice

人気記事