ノーベル賞受賞薬理学者が推奨する新型コロナ時代の呼吸法

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「落ち着いて呼吸して」という助言は、当たり前すぎて軽視されがちだ。

だが、新型コロナウイルスによるパンデミックという異常事態のなかにいる今の我々のように、増す一方のストレスに対処する上では、シンプルで整った呼吸を心がけることが、自分の感情や、ストレスが身体に与える影響をコントロールするための最高のツールの1つになる。

しかもこのツールは、手に入れるために外に出かける必要がない。ちょっとしたコツを教われば、わずかな時間で実践することができる。

この記事ではまず、この呼吸法の要点をお伝えする。それから、この呼吸法がストレスの軽減に役立つメカニズムについて、さらに詳しく説明していこう。

まずは、シンプルで制御された呼吸法を実践し、この際に「鼻から吸って口から吐く」よう心がけよう。具体的な呼吸法としては、ボックス呼吸法(4つ数えながら息を吸い、息を止め、息を吐き出し、息を止めるを繰り返す呼吸法)、バブル呼吸法(シャボン玉を膨らませたりしぼませたりするイメージでゆっくり呼吸する方法)、4-7-8呼吸法(4秒間息を吸い、7秒間呼吸を止め、8秒間かけて息を吐く)などがある。

ネット上のさまざまなサイトや、リラクゼーション用のアプリが、今挙げた方法をはじめとする呼吸法を解説している。それぞれの呼吸法には、実は大きな意味はない。大事なのは、制御された呼吸を実現するために、自分にとってやりやすい方法を見つけることだ。

なぜ「鼻から吸って口から吐く」のか?


その疑問には、科学の世界でも最もこの問題に詳しい、超一流の識者が答えてくれる。その人とはルイ・J・イグナロ(Louis J. Ignarro)博士。このテーマにおいて重要な役割を果たす一酸化窒素(NO)という物質についての研究で、1998年にノーベル生理学・医学賞を共同受賞した科学者だ。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部薬理学科名誉教授の称号も持つイグナロ博士は、一酸化窒素が体内で働く仕組みを解説している。

イグナロ博士は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療に一酸化窒素を使う臨床試験を行なっており、その研究論文のなかで以下のように述べている。「一酸化窒素は、体内のすべての臓器内にある動脈によって生成される気体分子であり、循環機能を調整する役割を持つ。一酸化窒素には、動脈を取り囲む筋細胞(平滑筋)を弛緩させる機能があり、これが血管の拡張を引き起こす」

「こうした生理的作用の結果として、動脈内の血圧が低下する。拡張した動脈を通じて、すべての臓器への血流量が増加する」

鼻から息を吸うと、鼻粘膜で生成された一酸化窒素ガスも一緒に吸い込まれる。これが肺に入ると、気道が広がり、脳や全身への酸素の供給が促進される。

このプロセスにより、血管や筋組織がリラックスする。この2つはどちらも、ストレスがかかる時期には緊張し、圧迫されることが多い組織だ。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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