ビジネス

2020.06.18 18:00

【独白】プロ経営者としてマザーズ史上最年少上場、サイバーセキュリティクラウド大野暉社長の29年


「僕たちはWebを守る」


そもそも情報セキュリティのマーケットは大企業が跋扈していて、ベンチャーが勝負していくのは難しい。

ただ当時は、パソコンなどハードにインストールするセキュリティソフトが全盛で、大手のセキュリティ企業が競争していた。「僕たちはWebを守る。機器ではなく、サイトやクラウドなど、誰もがアクセスできる場所を守る」。ニッチだが、それがきっと将来、独自の強みになっていくと信じていた。

Webサイト上やクラウド上にはログイン情報など、これからどんどん個人情報が溜まっていくはずだ。しかし個人情報流出などの問題が頻発してしまうのは、日本企業がWebのセキュリティへの投資にまだ本腰を入れていないからではないか。

日々変化していくサイバー攻撃から守るには、導入したセキュリティの運用が必要になる。ハードに導入する形のセキュリティは改善に時間がかかる。「今攻撃を受けている」、「次はこんな攻撃を受けるかもしれない」そんな緊急事態に即時に対応するのは難しい。

だから24時間365日、即時対応できる、スピード感のあるWebのセキュリティを手掛けることは理にかなっている。サイバー攻撃は過去の攻撃データの焼き増しであることが多いという。ニッチなニーズを満たしながら顧客を増やしていく。顧客数が増えればデータがたまり、大手のクオリティに負けないセキュリティサービスができていく。「元々の機能は弱くとも、データが集まれば強くなっていくはずだ」

だからこそ取り組んだのは、「シンプルに、やるべきことをやる」ということ。顧客価値の追求、ユーザーファーストの追求に取り組んだ。「針の穴みたいな細かな顧客ニーズを満たしていかないと勝てない」。就任から2年間はユーザーに寄り添い、データを集め、他社製品よりもクオリティを上げていくことに注力した。

PDCAを高速で回す中で、顧客からお叱りを受けることも多々あった。

製品上、かつ製品対応上のミスがあり、多くの顧客に対して影響が出てしまったこともあった。誠意を持って謝罪や経緯報告をしたつもりだったが、それでも誠意が足りなかったと指摘された。

一度自分たちがミスをしたら、導入先の顧客の事業や売上、事業計画にまで影響が出てしまう。セキュリティを手掛けていることの重さを改めて感じたという。

念願の株式上場「やっとこのフェーズにきた」


就任からわずか3年4カ月、念願の株式上場を果たした。

幾重にわたるハードルがあった。代表が2度交代している。さらに就任2年目でグローバル展開のために米国に子会社を作り、監査対象が広い。

そこにコロナ禍が重なった。今、マーケットにあげるべきじゃないのでは──。そんな声もあった。

しかし確信があった。ウイルスの影響で人が接触を避け、稼働が減る傾向にある。「人がいないところが一番空き巣が入りやすいのと同様、必ずサイバー攻撃も増えるんです。このタイミングで僕たちが頑張らないと、社会に損失が出る。どんなに上場時の価格が低かろうが、今いかないと」

結果、上場承認時の想定時価総額は92億円。元々想定していたよりはかなり低かった。「それでもこのコロナ禍だからこそ社会性を優先し、信用力を勝ち取りたかった」。

AIによる攻撃予測も行う。「やっと僕たちはこのフェーズに来た。ここからは技術力が必要になってくる」

6月10日、損保ジャパンなどとともに、サイバー攻撃検知ビッグデータの活用による、保険商品と関連するソリューション開発への共同研究を始めると発表した。

「セキュリティメーカーとして、いろんな製品群を持つようなコングロマリットにして、世界規模で人々の暮らしと命と財産を守っていきます」

後編はこちら>>
サイバーセキュリティクラウド大野暉社長が「人を信じる」理由と「3つの夢」


大野 暉(おおの・ひかる)◎サイバーセキュリティクラウド代表取締役社長。1990年生まれ。早稲田大学卒業。高校・大学在学時より複数回の起業及び事業売却を経験し、2013年よりスタートアップ企業にて新規事業部長や社長室長を歴任。2016年から現職。

文=林亜季、写真=小田駿一

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