それは正義か。コロナ禍で再びあえぐ日本の「貧困」の現実

新宿・都庁前で緊急相談会を開く、もやい代表理事の大西蓮さん(左)


多くの人が集まるため、もちろん感染症対策には留意した。もやいでは医師に相談のうえ感染症対策のマニュアルを作成し、対面の相談は長時間を避けるなど対策をとってきた。リーマンショック時には、日比谷公園に開かれた年越し派遣村での活動で、年明けに厚生労働省の講堂でホームレスの人たちが雑魚寝で寝泊まりする光景を知る大西さんにとって、新型の感染症への対応は新たな課題となった。

もやい緊急相談会
緊急相談会は、医師や専門家の指導のもと行った

相談会に集まる人の多くは、これまでも路上やネットカフェで暮していた人だ。新型コロナによる自粛要請でネットカフェも閉店すると、彼らが大きなダメージを受けることは容易に想像できる。だが大西さんは、異なるタイプの人たちの相談が増えていると感じている。

「例えば、もともと月十数万円を派遣で稼いでいたような人ですね。そういう人はこれまでも貧困なんです。見えにくいだけで、生活はギリギリですよね。なんとか生きてはいけるけど、貯金はできないみたいな。そういう人に新型コロナウイルスの影響が直撃し、支援を求めるようになっています」

飲食店や小売店だけでなく、一般企業でもリモートワークが可能な正社員に比べて、契約社員や派遣社員、アルバイトなどはシフトを減らされる、契約が更新されないなど、仕事を減らされる機会は大幅に増えただろう。さらにフリーランスや非正規で働いている人たちに経済的な影響が直撃し、困窮状態に置かれている人がいるのも現状だ。

非正規で働く人たちは、仕事が減れば、それに準じて収入が減る。その結果、それまでもギリギリだった生活が立ち行かなくなった。それが生活費を割り込むほどになったら、何か支援に頼るほかないのだ。

困窮しているが、支援よりも10万円給付を待ちたい


もやい緊急相談会
緊急相談会では弁当の配布も行った

初めて相談に訪れる人を支援するには、ある難しさがあるという。公の支援を受けたことがない人は、支援を受けるかどうかでまず迷い、どの制度を利用するかでさらに迷ってしまう。

支援を受けることは、経済的に困窮していることを自ら認めることにもなる。それだけでなく、生活保護にはまだまだ制度自体にネガティブなイメージが強くあるため、抵抗は強い。さらに「実家に頼ればどうにかなるかも」といった考えがよぎれば、公の支援を受けることを断念する理由になるだろう。支援を受けると決めても、社会福祉協議会による貸付を利用するか生活保護にするかといった選択肢も出て来る。ここでも、生活保護に対するネガティブなイメージから判断を揺るがせる。

こんな迷いを抱えるのは、働くシングルマザーたちも同じだ。仕事が減ったり、休校によって働けなくなったりして相談に来るのも難しく、メールや電話での相談が多いという。そして、フードバンクなど食料品の援助や貸付でなんとかしのげないかと考えている。

「相談に来る人たちの多くが、政府からの10万円の特別給付金を待っている」と大西さんは言う。子どもが2人いるシングルマザーであれば30万円が入るのだから、生活保護を受けるか迷っていれば、すぐにほしいお金であるに違いない。にもかかわらず、6月が始まった時点で申請書さえ届いていない人もいるのではないだろうか。

「政府の支援はとにかく遅い」と大西さんは感じている。政府が「スピード感を持って」と強調するのとは裏腹に、準備や確認作業などに手間取っており、支援までに生じるタイムラグが評価に値しないというのが現場の実感なのだろう。
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文=村山幸

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