ラ・ビズが伝染病によってなくなったのはこれが初めてではない。フランスでは14世紀、ペストを原因としてラ・ビズが姿を消した。ニュースサイト「ザ・ローカル」によると、この習慣が復活したのは第1次世界大戦後だ。
フランス人にキスの習慣を初めてもたらしたのはローマ人だった。ローマ人は、異なるキスの種類を表す3つの単語を使っていた。それは、愛情を示すためのキス「saevium」、友情を示すため、あるいは宗教的な目的でのキス「osculum」、儀礼的なキス「basium」だ。3つ目のbasiumがフランス語のラ・ビズとなった。
だがこの習慣はブルジョアジー(中産階級)からは若干低俗なものとしてみられたため、フランス社会の全ての階級が互いに頬にキスをするようになったのは20世紀半ばだった。
そして今年3月、ラ・ビズは再び好ましくないものとされた。
フランスのオリビエ・ベラン保健相は3月の記者会見で、握手のみならずラ・ビズもやめるべきだと発言した。
一部の人にとって、これは良いことだろう。ラ・ビズは混乱を招くこともあるからだ。
フランスでは、地域によってそれぞれの頬に何回キスするかが異なる。ウェブサイト「combiendebises.com」(サイト名は「何回キスをする?」の意)では、適切なキスの回数について人々が投票できる地図を掲載している。
最も一般的なのは、それぞれの頬に1回ずつの計2回。フランス北部のベルギー国境付近では、片頬だけに1度キスするのが一般的だ。南部の地中海付近では3回が一般的だが、マルセイユでは2回のみ。北西部では、4回が一般的な地域もある。
どちら側の頬からキスをするかについても判断が難しい場合がある。フランスでは、自分の右頬と相手の右頬を合わせる方から始めるが、イタリアではその逆の左と左から始める。
一部の人は、ラ・ビズがなくなったことに安堵しているが、ラ・ビズなきフランスはどうなるのだろう? ラ・ビズは、社会階級を問わず皆を平等に扱う習慣であり、パリジャンが手を合わせないハイタッチをしている光景は想像し難い。
フランスで、他の多くの習慣が復活するかどうかは時間がたたなければ分からない。現在低迷しているシャンパンの売り上げが危機後に復活する可能性は高いし、冷凍食品の売り上げが急激に増えたことがこれからも続くかどうかは後にならなければ分からない。しかし、バーや職場、学校に着いたときに皆の頬にキスをする習慣はどうだろう?
仏公共ラジオ局フランス・アンテールはロックダウン前、同僚や子どもの友人の親、友人の友人などに道で会ったときにどのようにあいさつすればよいか分からない人に向け、エボラ出血熱の流行時にも用いられた肘を突き合わせる方法や、足を合わせる「フットシェイク」など10のあいさつの方法を紹介するガイドを公開した。
パリの市長候補のアニエス・ビュザンも3月初め、ほほ笑んだり手を振ったりするだけでも十分ではないかと提案し、冷笑を買った。だがその後数週間で、これは誰も想像できなかったほど急速にフランスの日常となった。