MLBに開催の危機 野球やファンより「契約」が大事なのか?

コミッショナーのロブ・マンフレッド(Alex Trautwig / MLB Photos by Getty Images)


現在、MLB機構は総額2250億円ではなく、「1270億円と180億円のポストシーズンボーナス」と数字を書き換えて、再交渉に入ってきている。野球は選手だけでやっているわけでなく、球団職員や球場職員もそこで生計を立てている。機構側は早く交渉をまとめて試合を始めるべきだと主張する。
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一方、選手会側はこれが気に入らないのだ。つまり3月26日にいったん締結されている契約を機構が守らない、契約の一方的な破棄は絶対に許せないというスタンスをとっている。ファンのことも、球団職員や球場職員のことも理解しているが、契約破棄は紳士のすることではなく、信頼が毀損されたと語気を強めている。

これはまったくの筆者の想像だが、おそらく選手会の弁護士は、弁護士委任契約を時間報酬と成功報酬の組み合わせにしているはずで、であれば、多く年棒枠を獲得すればするほど弁護士報酬が上がり、逆も真なりというモチベーションが働いていることが想定される。

現在、機構側は89試合からさらに下げ、「7月から開催の72試合、かつ前述の減額された総枠をベースに日割計算された年俸」を提示しているのだが、たかが17試合分とは言え、合計1000億円の年俸枠減少には、選手会弁護士も譲歩する様子が見えない。
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このままではファン離れも


ファンの間では、「ファンを人質に取って争うのは双方醜い」として、機構側にも選手側にも組しない姿勢が多いようだ。自分が正しいという主張で戦うのは結構だが、双方で歩みどころを見つけないと、野球そのものをダメにし、つまりますますファン離れを起こして他のスポーツにもっていかれるだけになりかねない。

では、なぜここまで揉めるのか? アメリカの契約では、大抵の場合、前提条件が予想を大きく変わった場合、契約の内容を見直す余地を契約書のなかに盛り込んでいることが多い。しかし今回の場合、すでにアメリカでも死者が出ていた状況での契約だったので、選手会側は、想定外だったとは機構側に言わせないという態度を見せている。

一方で、MLB機構にしてみれば、人類がかつてのスペイン風邪以来の経験したことのないパンデミックにあい、「合理的な想定のはずが、結果的にそうはならなかったからといって想定力のエラーだとするのはフェアではない」という意識がある。

選手らは選手会の意思を尊重しなければならない立場にあるが、それぞれホームラン数や勝ち星など、個人記録に命をかけて戦ってきた人たちにしてみれば、この決裂はたまったものではないであろう。

とはいえ、前述の成功報酬の仕組みのように、弁護士同士の戦いの場合、不戦敗ではどちらの利益にもならないので、どこかで歩み寄りが行われるのではと筆者は想像する。行われるのは、89試合、72試合、50試合、0試合と、巷では勝手な想像で湧いているが、さて、みなさんの予想はいかに?

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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