外出自粛で映画配信が大盛況 海外作品の邦題はどうつけられている?


また、特殊な例もある。ベスト邦題について語られるときに必ず話題にのぼる、ジャン=リュック・ゴダール監督の「勝手にしやがれ」(1960年)だ。

この邦題を付けたのは映画評論家の秦早穂子さんで、当時、配給会社の社員として、世界に先駆けてこの映画を買いつけた。映画内で主人公が突然観客に向かって「海が嫌いなら、山が嫌いなら、街が嫌いなら……勝手にしやがれ!」と語りかける(「勝手にしやがれ」は原語のセリフでは「allez vous faire foutre!(くそくらえ)」)。

原題は「À bout de souffle(息ぎれ)」で、英題も「Breathless」と直訳だった。「勝手にしやがれ」という邦題は、まだ完成前の20分ほどのラッシュを観た秦さんが、映画の熱量を伝えるために、「日本の若者の胸に響くようなもの*」として提案した邦題だった。その時代の若者の気分を的確に捉えており、いまに至るまで傑作と語り継がれている。(*「影の部分」(リトルモア刊)より)

作品内容を象徴する邦題の付け方


原題とはかけ離れた付け方の例として、作品を象徴するものを邦題にする場合がある。ビターズ・エンドで配給している「チョコレートドーナツ」(2014年)がそれだ。


『チョコレートドーナツ』ブルーレイ&DVD発売中(ポニーキャニオン)/デジタル配信中(C)2012 FAMLEEFILM,LLC

本作は5月からアマゾンプライムでの配信が始まったこともあり、5月7日の時点で、Filmarksのトレンド第2位に。感想には「邦題に惹かれて観た」という言葉も多かった。

原題は「Any Day Now」、正直なところ、これだと日本の観客には意味が判然としない。これは、映画内でアラン・カミング演じる主人公のルディが歌うボブ・ディランの名曲「I Shall Be Released」の歌詞から来ている。

ゲイカップルであるルディとポールが、ダウン症の少年マルコと偶然出会い、家族を形成していく。しかし、世間の偏見によって共に暮らすことが許されず、やがて不幸が訪れて……という物語なのだが、作品を観た後ならば、この原題が示す「いつか、いますぐにでも」という言葉の意味は理解できるだろう。しかし、映画館に呼びたいのは、観る前のお客さまだ。

当初、主人公カップルとマルコが辿る運命を思うと「Any Day Now」より良いタイトルはないように思えた。「ふたりのパパ」という案も出た。これは両親がゲイカップルであるという内容を端的に表しているが、果たしてこのタイトルで観たくなるかと問われると、どうもしっくりこなかった。

すると、スタッフのひとりが「マルコはハッピーエンドがお好き」という案を口にした。それは冗談だったのだが、「この映画はゲイカップルについての物語というより、彼らがマルコを思う気持ちの物語だとアピールするべきではないか」と続けた。

目からうろこが落ちる思いだった。「性的マイノリティの物語」に囚われすぎていたのだ。
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文=藤森朋果

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