原題を生かしながら、副題をプラスするケースもよくある。弊社の配給作品である「パラサイト 半地下の家族」(2019年)がこれにあたる。
評価の高い作品だけに、「パラサイト」だけで公開するということも検討したが、これだとダイレクトに寄生虫を連想するのではないかという懸念があった。「もしかしたら怖いSF作品なのでは?」という誤った印象も与えてしまいかねない。コメディであり、社会派作品でもあり、エンタテインメントとしても成立しているこの作品のイメージを狭めてしまうのではないかと考えたのだ。
『パラサイト 半地下の家族』全国公開中(C)2019 CJ ENM CORPORATION,BARUNSON E&A
しかし、ポン・ジュノ監督からは「ネタバレ厳禁」の厳命を受けており、副題で内容の詳細は言えない。そこで、ネタバレにならずに物語の設定を伝えられる邦題は何かと思いを巡らせ、「事実だけを伝える」「どこかゲーム的な展開を予想させたい」と案を出し合った結果、この「半地下の家族」という副題に落ち着いた。
原題とはかけ離れた邦題の例
気になるのは邦題のもうひとつのパターンだろう。原題とはまったく違う邦題が付けられて、日本で大ヒットを記録したのが、「アナと雪の女王」(2013年)だ。
この作品の原題は「Frozen」で、IMDb(インターネットムービーデータベース)を見てみると、各国のタイトルは原題の直訳か、「氷の王国」「氷上の冒険」「氷の女王」といったものが多い。「アナと雪の女王」と原題からかけ離れているのは日本とマレーシアくらいだ。
同じディズニー映画の「カールじいさんの空飛ぶ家」(2009年)の原題は「Up」。こちらも各国のタイトルは「Up」か「空へ」というように、原題からあまり飛躍していない。英語圏の子どもにとっては、このようなシンプルで短い言葉がかえって作品の理解に繋がるのだろう。
しかし、これらを日本語で直訳した「凍結」や「上へ」をそのまま邦題にしても、日本の子どもたちが観たいと思うものには到底ならないし、例え大人であっても映画の内容をイメージするのは難しい。
他社が配給した作品なので憶測の域は出ないが、主人公の名前を入れることで、行動の主体をはっきりさせ、内容をわかりやすくする目的があったはずだ。
「アナと雪の女王」の原案であるアンデルセンの童話のタイトルは「雪の女王」だが、物語の主人公は雪の女王ではなく、氷の破片が目に入り、性格が変わったカイを無償の愛で助けるゲルダだ。映画のほうも、心を閉ざした雪の女王エルサを無償の愛で救い出すアナを中心に展開する物語で、作品内容を端的に表すために「アナ」を入れて主人公を明示したのではないだろうか。
そして、「アナとエルサ」にするのではなく、日本人にもなじみのある童話のタイトル「雪の女王」を付けることで、女王を救うアナの物語であることをはっきりさせたのだ。
ちなみに、まもなく最新作が公開されるシルベスター・スタローン主演の「ランボー」シリーズだが、第1作の原題は「First Blood」(1982年)だったが、邦題は「ランボー」と主人公の名前をそのままタイトルにしたことで大ヒット。第2作以降は原題にも「Rambo」が入るようになった。「主人公の名前が訴求になる」という非常にわかりやすい例の1つと言える。