では、そのアイデンティティとはどのようなものか? アフターコロナで重要視される企業のアイデンティティはサステナビリティ精神・意識だ。サステナビリティには本来、「環境・社会・経済などが将来にわたって適切に維持・保全され、発展できること」という意味であり、環境作りや街づくりに関わるものだけでなく、「人」に関わる意もあるのだ。
人々の命を脅かすパンデミックが到来し、サステナブルな経営で一番求められるのは「人」を大事にするということではないだろうか。会社という組織は家族や従業員を守るためにあると確信することが大事だ。
吉川:いま現実にないものにロマンを見出し、夢を創っていくのがこれまでの起業家の精神でしたが、「すでに存在するもの」の価値に気づき、上手に活かす能力がサステナブルな経営に繋がるのではないでしょうか。
佐藤:あるレポートでは、サステナビリティで一番大切なのは、「社員に対する情熱」と出ていました。いかに社員を守り、働き方や感情をケアするか。社会貢献も大事ですが、そのためのエンジンとして頑張るスタッフを最優先にすることが望まれていて、良いデザインやサービスを提供するのはそのあとの話です。
吉川:まさにそうです。私は日々お客様を優先しますが、いざとなったらステークホルダーの中で従業員を最優先すると決心しました。以前は自分が成し遂げたい夢や世界に仕事という手段を通じて近づきたいと思い、そのプロセスが充実していましたが、今回夢の定義が変わりました。
コロナ禍によって家庭の重要性が増した今、目の前にある幸せに気づき、家族の大切さを実感しました。家庭と会社という大家族両方のバランスを取れる経営者にしかサステナブルな経営ができないと感じ、それを課題としています。
アーティストというアイデンティティの提案
さらに吉川氏は、“アーティスト”というアイデンティティを提案する。ビジネスエリートは、実践的なスキルを超えるためにアートに接して美意識を鍛えるべきという時代思想を一つ上まった発想だ。経営者たちがアート制作を新しい自己表現の手段と見出せば、現代アートへの興味も増し、国内のアート市場が活性化され、街を文化的にも豊かにするという新しい都市開発にも繋がると考える。

吉川:私がアートを学び始めたのは半年から1年前ですが、経営者こそアーティストであるべきだと定義しています。例えばセゾンの堤さんは経営者でありながらアートコレクターでもあり、作家であり、そのライフスタイルから出てきたあらゆるブランドは彼がアーティストであることから生まれたものではないでしょうか。
経営者にアートコレクターはいるけれど、本業でアーティストに徹するタイプの経営者は日本や海外にいるのでしょうか? レベルが低い僕が馬鹿な一歩を踏み出し、「それだったらそういうこと俺もやってみよう!」と皆がそこをどんどん超えていく。日本人かどうかは別として、日本でそういう人が出てきてくれると面白いと思っています。日本で経営し、日本で作り、世界に発信する。本業そのものをアーティストに変えてしまうという経営者が現れ、ムーブメントが起きて欲しいです。


