感染症のリスクも減らす 今こそ知るべき「オーガニック」の真価

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ファクトリー・ファーミングの代替となるサステナブル生産手段として欧州連合が注目し促進支援してきたのが「オーガニック」だ。

欧州では、BSE危機(狂牛病)を契機にオーガニックへの社会的関心が高まり、有機食品市場が急成長した歴史がある。現在、コロナ大流行を背景に、有機畜産の利点に対する意識が人々の間でさらに高まっているのもうなずける。

有機畜産は、一頭・一羽あたりの最低飼育面積が定められていることから飼育密度が抑えられる。また、有機家畜には通風や採光を伴う住環境が確保され、屋外へ自由に行き来できることから、感染リスクが低くなると考えられている。


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そもそも、オーガニックの家畜や家禽は、ストレスを極力受けない暮らしをしているので、病気への抵抗力が高い。ファクトリー・ファーミングで育つ動物と違って、病気予防を目的とした抗生物質を日常的に摂取する必要がない理由もここにある。

オーガニックは「公共財」


日本で有機食品の消費が進まない最大の理由は、その価格の高さゆえだろう。しかし、ファクトリー・ファーミングなどの工場から出荷された食の値札は真の価格ではない。そこには、上述してきた健康コストや環境コストといった地球全体に負の影響を及ぼす無数の「コスト」が隠されている。

オーガニックは、人や動物の健康を高め、気候変動の緩和や生物多様性の保全に貢献する。後者は「生態系サービス」と呼ばれ、値札に反映されることがない。だからこそ、欧州連合はオーガニックを「公共財」として捉え、有機食品を消費者が買いやすいよう、生産者が作りやすいよう支援してきた。

本来、食は人を豊かにするものであった。しかし、生業としての「農」から産業としての「農業」へと形態が変わり、際限なく経済性が追求されるようになると、状況は一変した。今日私たちが直面するパンデミックや気候変動などはその代償である。

地球規模での大問題を前に無力感を感じることは多い。だが、数週間から数カ月間に及ぶステイホームを経て、世界の人々の意識や暮らし方は確実に変わろうとしている。この危機を抜本的な社会変革の契機とすることも今なら可能なのではないだろうか。

文=レムケなつこ

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