主な目標は、子供ひとりひとりの「パーソナライズされた成長過程」を見守り、最適化された児童教育を提供することだ。上海師範大学などの博士や研究者、海外学校の専門家が同幼稚園に常駐し、スマート教育に対応する教育者たちの育成もサポートしていく計画である。
天華幼稚園では、子供たちの心と行動を評価するためAIシステムが導入される。現場で研究を深め、全国にノウハウを普及することが最終的な目標となる。
同幼稚園には「微表情認識AI」「骨格モデリングベースの動作認識アルゴリズム」などが導入される予定だ。前者は精密かつ高速に子供たちの表情を認識することで、遊びに対する集中度や活性度など、心理変化を客観的に判断できるように設計されている。
後者は、胴体と四肢の動作を認識し、その動きのデータから子供たちの知能を分析していく用途で使われる。表情と動き、心理状態の関連性も可視化してく狙いがある。最終的に、各子供の行動特性データを評価して、成長報告書や知能マップとしてアウトプットすることで、パーソナライズ教育システムとして確立を目指すとしている。
世界各国ではSTEM教育を強化し、ITやテクノロジーに強い人材を生み出そうとする流れが強まっている。しかし中国では、「人工知能を使って高度人材を生み出す」という新たなフェーズに突入したようだ。「機械によって育てられる子供」と聞くとSF世界の出来事のように聞こえるが、実際にそういう世界が近づいてきていることを証明してくれるエピソードのひとつとなろう。中国の留学・教育事業に携わる関係者からは次のような話もある。
「中国では現在、親の教育熱がとても高く、大学進学のために大きな力を注いでいる。しかし、試験を勝ち抜き正規に大学卒業の学位を取得できるのは、志望者の40%ほどと言われています。受験戦争を勝ち抜くためにも、より高度な児童教育を与えたいという需要はそこかしこに潜在していると思います」
もちろんAI幼稚園プロジェクトには、高度人材をひとりでも多く生みたいという政府の思惑もあるのだろう。市場の需要と国策によりスタートするAI幼稚園は、どのような発展を遂げるのか。見逃せないAIの社会実装例となりそうだ。
連載:AI通信「こんなとこにも人工知能」
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