なかでも一番の苦境に立たされているのが、南北関係を統括する韓国統一省だ。これまでも、南北の合同文化行事の開催や南北鉄道連結事業の推進など、南北関係改善にはやる動きを次々に見せて、米国など国際社会を困惑させてきた。しかし、最近では北朝鮮に押し込まれて、統一省も打つ手がほとんどない。
そんななか、統一省が6月1日、ユーチューブで3分25秒の短い映像を公開した。金錬鉄統一相が出演し、職員22人と一緒に「入道雲」という歌を合唱するというものだ。出演した金氏は、今年が初の南北首脳会談から20周年にあたると説明。平和を目指し、入道雲のように南北が自由に往来できることを願うと語った。
金錬鉄統一相が職員22人と一緒に「入道雲」という歌を合唱している様子
だが、韓国の知人に聞いてみると、このユーチューブの映像に寄せられたコメントは芳しいものではなかったようだ。「6月は韓国(朝鮮)戦争が始まった月でもあるのに」「この国は北韓(北朝鮮)を同盟国だと思っているみたいだ」など、辛辣な言葉が並んでいたそうだ。この映像をみた、日本政府関係者の1人は「歌を歌って南北関係が改善されるなら世話はない」とため息をついた。そして「中身もお気楽だが、新型コロナウイルス問題で密を避けろとお願いしている政府当局者が密になってどうするんだろう」と、天を仰いだ。
別の韓国政府の知人は「このユーチューブが製作されたときは、まだ南北関係が緊張する前だったから」と語り、あまり意地悪くみないで欲しいと訴えた。ただ、北朝鮮が、脱北者が北朝鮮に向け、風船につけて送った金正恩朝鮮労働党委員長らを非難するビラを理由に緊張を高めると、統一省は先頭に立って、ビラの取り締まりに乗り出す考えを強調した。国際社会からは「取り締まる相手を間違えている」という声が上がるなど、今度は「国際社会との感覚のずれ」が浮き彫りになってしまった。
文在寅政権で目につくユーチューブはほかにもある。韓国法務省は1月31日、ユーチューブの動画「お母さん長官、お父さん次官、ソウル少年院に行く」という5分30秒あまりの動画を公開した。旧正月に合わせ、秋美愛法相と次官が少年院を訪れ、収容受刑者たちと交流するという内容だ。少年受刑者らが秋法相と次官に正月のあいさつをし、お返しにお年玉を配る場面もある。これには、「人権侵害ではないか」「知らないおじさんやおばさんに、新年のあいさつをしたい人なんかいるのか」というコメントが並んだ。