1992年のロサンゼルス暴動では深刻化していたアフリカ系アメリカ人と韓国系アメリカ人との不和が、今日すっかりなくなったかといえば恐らくそれは間違いだろう。
朝鮮日報によれば、6月2日までに韓国系商店79件の被害が報告されている。今回の暴動でおきている略奪行為は韓国系など特定の人種を狙っておこなわれているわけでは決してないが、ロサンゼルス暴動の記憶もあり不安が広がっているとの報道もあった。
またコロナ禍において相次いで報道されたように、韓国系ならびにアジア系差別は今もはっきりと存在している。アジア系の人々に対して「コロナ!」と叫ぶ人がいたり、電車の中で消臭スプレーを吹きかけられたりするなどの事件は記憶に新しい。
米国におけるK-POP快進撃。BlackLivesMatterとの連帯
韓国のラッパーDonutmanが人種差別に反対するSNS上の動きに対して「手放しで良いとは思えない」と主張したことや、韓国系アメリカ人モデルのNicky Parkがインスタグラムのストーリーに「BLM運動にうんざりしている」「アジア系が黒人のために立ち上がるのはばかげたこと」などと投稿したように、連帯に対して消極的な見方もある。
しかしそれでもなお、BlackLivesMatterとK-POPの連帯は今後の友好的な関係を築くための大きな足がかりになるだろう。この連帯の背景にはアメリカにおけるK-POP文化の躍進がある。異文化理解が進むきっかけとして、音楽などのポピュラー文化が果たす役割は大きい。
『オックスフォード英語辞典』にK-POPという項目ができたのは2012年だったが、この年は歌手のPsyがアメリカン・ミュージック・アワードで「江南スタイル」を披露した年でもある。世界的な大ヒットを記録した同作品は、腰をくねらせ、腕を回す「乗馬ダンス」で人気を博した。アメリカではビルボード誌のシングルチャート「ホット100」で5週連続2位を記録している。
また当時大統領選を争っていた民主党のオバマ大統領に扮した男性が登場する「江南スタイル」のパロディー映像を米誌タイムが発表するなど、様々な層でのK-POP受容の呼び水となった。
その後、BIGBANGや少女時代、BLACKPINK、EXOなど、次々に本格的なアイドル歌手がアメリカに進出すると、K-POP人気は確たるものとなっていく。またグラミー賞を主催する「Recording Academy」の会長を務めるHarvey Mason Jrなど、ブラックミュージックの重鎮たちがK-POPのサウンドを支えることも珍しくなくなった。
K-POPアイドルの中でも最も勢いのあるBTSは、2019年にはアメリカを代表する音楽賞のひとつ「ビルボード・ミュージック・アワード」で3年連続でトップ・ソーシャル・アーティスト賞を受賞し、また2020年のグラミー賞のステージではパフォーマンスを披露した。これはK-POP界としては初の快挙であった。
アメリカにおけるK-POPの存在感はますます大きなものとなっている。音楽を介した交流がお互いの文化を理解するきっかけとなり、過去に存在した不和を未来へ向けて解消する一助になるのだとすれば、BlackLivesMatterとともにK-POPはアメリカにおける人種的な軋轢を乗り越えるための大きな挑戦を始めているのかもしれない。