BTSが1億円寄付。K-POP快進撃が人種問題で果たす役割とは?

第62回グラミー賞にパフォーマーとして参加したBTS(Getty Images)



(スパイク・リー『ドゥ・ザ・ライト・シング』から引用)

「お前の店を焼き払って灰にしてやるぜ」と歌っていたIce Cubeの念頭には恐らく『ドゥ・ザ・ライト・シング』のこのシーンがあるが、映画内で韓国系の店主が群衆に襲われた原因の1つには、韓国系ソニーの商才への嫉妬がある。

真夏の猛暑の中、失業状態にある三人の黒人中年男性が与太話をしているシーン。彼らの一人、通称M・Lが仲間に語る。「見ろよ、全く頭にくるぜ。通りの向こうの韓国系商店だよ。1年前に来てもう店を出した。難民ボートを降りてたって1年、それが店を出して繁盛してやがる。この辺りで一番程度の良い建物に入って古顔の俺たちより羽振りがいい」「なぜそうなったのか俺には判らない。韓国系のクソどもが天才なのか、俺たち黒人がそろってバカなのか」

人種関係の歴史を研究する佐藤唯行は『映画で学ぶエスニック・アメリカ』でこのシーンを次のように解説している。

「M・Lのセリフには韓国系の『成功』をまのあたりにした黒人たちの深い挫折感が漂っている。顧みれば米黒人の歴史は、アメリカに渡米した新参者たちに次々と追い抜かれる歴史でもあったのだ。そしてアメリカへ渡った移民たちの最後の列に加わった韓国系移民たち(70年代以後)に、またしても追い抜かされようとしているのだった。だが無学なM・Lは彼らが「難民」などではなく、本国在住時にすでに『高学歴の中産層』であった事実を知らない。また一見成功しているかのように見える韓国系ビジネスも、実はアメリカの権力構造のなかでは多大なリスク(犯罪率の高い黒人地域での商売)と果てしない長時間労働を冒しての『下済みの仕事』にすぎない事実も理解してないのである」

Ice Cubeも「韓国人は黒人コミュニティの中でかなりの商売をしている」と述べていたが、このような意見は70年代以降に増加した韓国系移民たちへの無理解によるところも少なくない。その背景にある大きな苦労にまで目をやることができなかったのだ。

「アメリカン・ドリームのため努力してきた」


映画内でソニーは群衆による焼き討ちをあと一歩のところで逃れるが、1992年に現実におきたロサンゼルス暴動では、暴徒と化した市民が韓国系店を襲い、放火や略奪を行った。ノンフィクション作家・野村進の『コリアン世界の旅』には、暴動の被害を受け店が全焼してしまったリカー・ストア店主チェ・ソンホの証言が残されている。

「『アメリカに来てから、毎日14時間も16時間も働いて、やっと買った店なんだよ。俺も“アメリカン・ドリーム”を夢見て、14年間ひたすら頑張ってきたんだけどな……』肉屋で働いていたとき誤って切断しそうになったという右手中指の傷跡を私に見せて、チェは大きく溜め息をついた。店を失ったうえに、70万ドル(約8400万円)もの借金を抱え込んだ。新しい店の開店資金ばかりでなく、焼かれた店のローンもまだ残っている。保険金は、ほとんどのリカー・ストアと同様、まったく支払われていない」

ロサンゼルス暴動が起きた当時、韓国系商店が狙われる動機となった1つに「韓国系が黒人から暴利を貧っている」という意見があった。しかし、韓国系移民からしてみれば、それは黒人街に住む人々の偏見に過ぎない部分もあった。彼らが他の店よりも高い値で売らざるを得なかったのは、強盗の被害が大きい地域での商売の宿命であり、またスーパーと違い規模が小さい彼らの商売では、卸し値を引き下げることは難しかったのだ。
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文=渡邊雄介

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