BTSが1億円寄付。K-POP快進撃が人種問題で果たす役割とは?

第62回グラミー賞にパフォーマーとして参加したBTS(Getty Images)


1988年の曲「Fuck tha Police」に代表されるように、N.W.Aでは警察による黒人への不当な暴力を批判していたIce Cubeが、なぜその後のアルバムで「黒い拳」を韓国系の人々に向けているのだろうか。当時のIce Cubeは「小銭を数えてばかりいるクソ東洋人」ともラップし、アジア系への偏見や敵意をむき出しにしていたが、この曲の背景には1990年にはすでに深刻化していたアフリカ系アメリカ人と韓国系アメリカ人との軋轢がある。Ice Cubeは「Black Korea」についてこう語っていた。

「韓国人は黒人コミュニティの中でかなりの商売をしている。(ハーリンズの)殺害事件は、その問題の証にすぎない。ヤツらが黒人を軽蔑していることの例にすぎないのさ。黒人が店に入れば、何かを盗むに違いないってヤツらは思っている。まるで黒人は犯罪者だって感じで、ずっと後をつけてくる。そして『買わないなら、出て行け』って言うんだ。そんな経験したことのないヤツには、何もしちゃいないのに犯罪者扱いされることがどれだけ不愉快か、わからないだろうな」(ジェフ・チャン『ヒップホップ・ジェネレーション』、押野 素子訳、リットーミュージック)


ラッパーのIce Cubeはギャングスタ・ラップの礎を築いた(Getty Images)

この楽曲が発表された当時、アフリカ系と韓国系とのあいだにある緊張は、ラターシャ・ハーリンズ事件によって高まっていた。ロドニー・キング事件からわずか13日後、事件は韓国系アメリカ人が経営する商店「エンパイア」にておきた。

店主のトゥ・スンジャに万引きをしたと誤認された当時15歳の黒人少女ハーリンズは、店主と揉み合いになったのち、店から去ろうとしたところをトゥに背後から銃撃される。放たれた弾丸は頭部に当たり即死だった。

事件から8カ月後、陪審員は16年間の懲役刑を求刑していたが、彼らの意見は無視され、トゥ・スンジャには執行猶予付き5年の懲役、400時間の社会奉仕、500ドルの罰金という非常に軽い刑が言い渡される。

事件の判決が下る10日前に発表された「Black Korea」には、このラターシャ・ハーリンズ射殺事件に象徴化されるようなマイノリティ同士の不和が描かれていたのだ。

暴利を貪る? 黒人コミュニティから嫉妬された韓国系商店


Ice Cubeの怒りが表現された「Black Korea」には、すべての黒人を犯罪者であるかのようにみる韓国系アメリカ人の偏見が描かれていたが、彼が「Black Korea」のイントロとアウトロの部分でサンプリングしたスパイク・リーの映画『ドゥ・ザ・ライト・シング』には、それと表裏にある黒人たちの韓国系アメリカ人への「嫉妬」も描かれていた。

1989年に公開された『ドゥ・ザ・ライト・シング』は、ブルックリンの黒人街を舞台に、イタリア系アメリカ人とアフリカ系アメリカ人との些細なトラブルが暴動にまで発展してしまう様子を描いた作品だ。

劇中で商店を営む韓国系アメリカ人のソニーは、映画の終盤で店に詰め寄る暴徒化した群衆に向けて「自分も黒人だ。あなたたちと同じだ」と叫び、焼き討ちから自分の店を守ろうとする。群衆を追い払うために必死にモップを振り回し助けを請う店主の姿は嘲笑され、黒人たちは「自分も黒人だ」と無理な主張を叫ぶソニーと口論になるが、なんとかその場は収まり群衆は立ち去ってゆく。
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文=渡邊雄介

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