ビジネス

2020.06.17 08:30

「使命感が9割です」 ガーナに30億円の投資を決めた日本人起業家の気概


まずは都市部でセールス担当者2名を採用した。彼らがもらってきた発注書をもとに、北部にいるスタッフがトラックを出し、複数の農家からトウモロコシを集める。それらを発注先の業者に届け、代金を受け取る。それでも余った分は貯蔵庫で丁寧に保管し、平均価格が3〜4割上がる品薄期に売りに出す。こうすることで、それまで捨てていた農作物を生活費に変えることができる。

「融資をしてほしい」との農家の要望を受けて、2019年4月には土地と種子、肥料、生産のノウハウをパッケージ化して提供する事業も始めた。営農支援の担当者が農地に定期的に出向き、肥料の与え方などを指導する。このビジネスの肝は、金を一切介さないことだ。農家に提供するのはあくまでモノとサービス。その見返りとして、収穫時に一定量の農作物を受け取る。

「銀行から融資を受けた場合、農家の返済率は2〜3割と言われています。しかし、この方法だと9割は返済してくれます」と牧浦は胸を張る。この仕組みにより、次の収穫期に手に入る農作物の量も予測可能になった。最近はガーナにあるギネスやネスレの工場からも大型受注が入るようになり、「提携農家の平均収入は昨年比で約2倍になった」(牧浦)という。

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数千トン分の農作物を保管できる倉庫をガーナ国内数カ所に保有。余剰分はここに貯蔵し、品質を保ちながら高値で売れる時期を待つ

オールドアグリカルチャーはなくなるべき


物流に、倉庫に、農業指導。ここまで読んできた読者のなかには、「いまだに、こんな古いスタイルでやっているのか」と思う人も少なくないだろう。牧浦も、投資家や起業家仲間から「テクノロジーは?」とよく聞かれると言う。

「大量の電気を安定供給することもできないなか、6億人いるサブサハラ・アフリカの小規模農家に明日からICTを使った農業をやってもらおうとしても、無理なんです。だから当面は、いまの方法で彼ら彼女たちの生活をしっかり変えていきます。自分以外は誰も、こんな手のかかることをやろうとしませんから」

だが一方で、「オールドアグリカルチャーは消えていかないといけない」とも指摘する。

「我々がいまやっている農業は、大量の水を消費します。環境にいいとは決して言えません。だから数年以内に、最新の手法を取り入れた大型の植物工場や、培養肉の開発事業などに移行する予定です。サステナブルに生産できる仕組みを整えて、いずれは現地の人たち主導で、新しい農業をサブサハラ・アフリカ全体に展開していってほしい」

「楽しくはないですよ。使命感が9割です」。そう言いながらも、決して歩みを止めない牧浦。

アフリカの農業改善も、マスクの寄付も、Tシャツの企画販売も、根底にある行動指針は常に一貫している。現状を知り、理想を描き、目に見える形でアクションを起こすことだ。

なぜなら、「社会を変えたい」と思っているだけでは何も起こらないのだから。

連載:SDGs時代の、世界をよくする仕事の作り方
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文=瀬戸久美子

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