「ITサービスをつくるより、目の前の農作物を売ってくれ」
世界銀行によると、世界の貧困層の数は1990年から2015年までの間で約19億人から7.4億人に減った。そのなかで唯一、極度の貧困状態に置かれている人の数が増えたエリアがサブサハラ・アフリカだ。この地域に住む人の大半は農業を営んでいる。
2018年初頭、牧浦は6年ぶりにルワンダに降り立った。そして、国際機関や数多くのNPO、NGOが活動していたにもかかわらず、農村部の暮らしが改善されてないことに衝撃を受けたという。
世界から貧困をなくすためには、誰かがサブサハラ・アフリカの農家の生活を劇的に変える必要がある。そう気づいたとしても、多くの人は「誰か=自分以外の人」を想像するだろう。だが、牧浦は違った。「恵まれた環境下で生まれ育った人間は、世の中のために尽くすべき」というノブレス・オブリージュの精神を持つ彼は、これは自分が解決すべき問題だと腹を括った。
そして「人工衛星のデータを使って農地のサイズや収穫量がわかるサービスを開発すれば、農家が作物を売りやすくなるのでは」と考えた。
そこで国連の協力を得ながら、NASAで宇宙開発技術などに携わってきたエンジニアたちと開発に取り掛かり、数カ月後に人工衛星解析サービス「Next Space」が誕生した。
しかし、これが大失敗だった。
できたてのサービスを携えてサブサハラ・アフリカの国々を回ったが、農家の反応は冷ややかだった。「こんなものより水、電気、サッカーボールが欲しい。あと、山積みになっている農作物を今すぐ買ってくれ」。皆、口々にこう言った。農家が直面している課題は、思っていたよりはるかに本質的なことだったのだ。
自分は現場を見ていなかった。そう痛感しながら日本に帰国した牧浦だが、分かったこともあった。それは、人口約3000万人のうち農業従事者が7割以上を占めるガーナでは、北部の農村地帯には作物があり余っていること、そして南部の首都アクラなどでは食料が不足しているという事実だった。
南には需要が、北には供給元がある。にもかかわらず、なぜこの2つが結びついていなかったのか。そこにはガーナ特有の3つの理由があった。輸送の仕組みが整っていないこと。農家に営業や交渉のスキルがないこと。そして何より、同じ国民でありながら言葉が通じないことだ。
実は、ガーナでは約80の言語が使われている。農村部で英語を話せる人は、ほぼ皆無だ。それなら自分の会社が間に入って、業者と農家をつなげばいい。こうして2018年11月に、農業商社・デガスが誕生した。
ガーナ北部の小規模農家約3000件と契約。農協も作り、ガーナの農業の「仕組み化」を進める