IBMがICTインフラを担当したスタジアム
かつてCNN本社に勤務していた私にとって馴染みのあるアメリカ・ジョージア州アトランタには2017年、IBMがICTインフラを担当したメルセデス・ベンツ・スタジアムが完成。16億ドルを投じたという本スタジアムは、スマートスタジアムのモデルと言われている。
「ICTインフラの敷設」とひと言で表現されるが、完成したスタジアムにそのインフラを追加するには難易度が高い。本スタジアムも大量な光ケーブルをスタジアム中に引き回すため、設計段階からインフラ用の物理的スペースを確保。これによりスタジアムの座席下には高密度Wi-Fiのケーブルが這い回っている。
メルセデス・ベンツ・スタジアムは屋根の開閉システムなどを含め、「箱もの」としても目をみはるが、インフラの充実により、入場は100%ペーパーレス化。これにより入場券のもぎりなど人との接触を避けることができる。スタジアム・アプリによるスマート化も著しく、パーキングパスを事前購入の上、駐車場の場所、スタジアムへのナビゲーションも実装、混雑・混乱を避け自身のシートまでたどり着くことを可能にする。withコロナ時代の必要条件を満たしている。
さらにこのアプリは、スタジアム情報を提供するチャットボットも内蔵(その精度については、未確認だが)。7万人の大観衆に同時ビデオ・ストリーミングも提供し、新体感の側面から、5Gによりさらなる進化が想定される。
ビールのカップを置くスペースも確保できない日本の既存のスタジアムに、これから高密度Wi-Fi網もしくは5Gを敷設するのは、並大抵ではない。東京五輪のために新築されたスタジアムなどでどこまでスマート化が進むのか、期待も膨らむ。
巨人は東京ドームに代わる新しいスタジアムを模索しているとされ、五輪後に築地市場の跡地にスタジアム新設の噂もある。ぜひこうした新技術の粋を集めたスマートスタジアムを目にしたい。
日本のスタジアムのインフラは近年、アップデートされる傾向だが、つい10年ほど前まで、12球団のフランチャイズ・スタジアムでも、プレスルームまで光回線がと届いておらず、プロ野球公式記録のやり取りでさえ、ダイヤルアップの電話回線に頼っていたほど。光回線導入についてスタジアム側は「コストの問題で」と渋っていたのが、ついこの前。
2020年も観客への新体感提供のための「スマート化」という筋書きであったなら、P/L(損益計算書)を考慮し、二の足を踏むスタジアムばかりとなっただろう。しかし、新型コロナの感染予防について、観客に安全面のニーズに基づくとなると、社会的責任の観点からも対応せざるをえないだろう。
来年、決行されるのであれば、東京五輪で使用されるスタジアムなどは、こうした混雑緩和対策のために、IoTソリューションを導入はかなり現実味を帯びる。
日本におけるスタジアムのスマート化、まさか新型コロナ騒動が、その導入にひと役買うことになるとは、ほんの少し前まで想定もしていなかったが……。
連載:5G×メディア×スポーツの未来
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