日本にまだない「スマートスタジアム」 モデルはメルセデス・ベンツ

アメリカ・アトランタのメルセデス・ベンツ・スタジアム。スマートスタジアムの代表格だ(Getty Images)

ちょっとしたスポーツ好き、またはスポーツ・ビジネスに関わる方なら「スマートスタジアム」という言葉を耳にしたことがあるはずだ。この発想そのものは、もはや新しくもなく、日本でも頻繁に聞かれるようになり、10年ほどが経つだろうか。

スマートスタジアムとは、IoTにより利便性を向上させたスタジアムの総称。日本では言葉のみが先行し、具現化したスタジアムはまだない。楽天がイーグルスでのフード・オーダーをモバイル化し、NTTが大宮アルディージャで実証実験を重ねるなどしてはいるものの、コンセプチュアルに完成したスタジアムは、日本にまだ存在しない。

スマートスタジアムの3つの特徴


スマートスタジアム構想が一般概念となってから、日本で建設されたスタジアムは数に限りがあり、設備そのものは安価ではないため、コスト面がボトルネックとなっているようだ。スマートスタジアムの特徴は以下の3つ。

まずは、観客への新体感提供。AR/VRなどを駆使したマルチアングルによる観戦を提供し、リプレーや試合のスタッツ情報などの付加価値を提供することで、より観客の来場を促すなど新スタイルだ。

2つ目は警備面。セキュリティ・カメラの設置が進むにつれ、以前とは異なり数多設置されたカメラ映像をすべて人間の目で監視するのは限界がある。そこでAIにより映像を解析させるなどして、警備そのものを自動化する方策だ。昨年、KDDIとセコムがラグビーW杯開催スタジアムの花園ラグビー場で実証実験を行ったのは記憶に新しい。

3つ目が混雑緩和。AIカメラや入場者のモバイル情報などを活用し、売店やトイレの混雑具合を把握、それを入場者に提供することで、入場時やハーフタイムなどの混雑を避ける狙いがある。最近は珍しくなくなった電子チケットによる入場管理や売店のキャッシュレス化なども、混雑緩和に役立っているだろう。

こうして集めたビッグデータの活用もそのメリットだが、それは2次的な活用なので、ここでは一旦、含めないことにする。

これまでスマートスタジアムは、スポーツ界において、常にビジネスシナリオ最優先で論じられて来た。新体感、観客に新しい体験、新たな付加価値を提供することで、より高額なプレミアム・チケットのセールスに結びつけ、遠隔地のファンに向け、より臨場感をもたらす有料配信確立を模索するなど、ビジネスの側面をメインに構想が練られてきた。

しかし、新型コロナウイルスに席捲され、すべてのライブ・イベントが延期もしくは中止となった後、いよいよ再開へと動き出しているいま、スマートスタジアムの重要性は、「混雑緩和」など感染防止の文脈で進められる方向性が想定されるようとしている。
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文=松永裕司

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