経済・社会

2020.06.14 12:30

拙くて幼い。だが、獄中からの手紙はまぎれもない「真実の声」だった|#供述弱者を知る


「戦いつづけたら勝てます」


7月19日
「15日に井戸先生から手紙もらったのですが、すごくうれしい内容でした。(第2次再審請求審の)主任裁判官が、私の裁判をおくれてしまっているのは自分の責任です、と言ってくれたみたいで、あやまっていたと書いてありました。あと京都の日赤の先生が意見書を書いてくれるみたいで、またお金がいるということでお父さんお母さんにふたん(負担)をかけてしまうなあと思い、申し訳ないなあと思っています」

「それやのにさみしいからと本を注文するのもためらうのですが、やっぱり1人でかぎのかかった部屋にいるとイライラしてしまいます。本があると気分が落ちつきます。井戸先生も、辛いことが多いでしょうが短気を起こさないでね、と書いてありました」

「あと24日で8月10日ですね。青木さんの無罪判決ですね。うらやましい反面よく20年間も頑張ってこられましたね」「まあ私は“冤罪”やから、お父さんもお母さんもこうやって和歌山までこれるんやと思うし、本当に殺人していたら、かたみ(肩身)せまい思いしなあかんかったと思うしね」

8月23日
「青木さんの無罪ニュース、なんかうつらへんかったなあ」「新聞記事ですが青木さんのところだけをこぴーするかハサミで切って欲しいのです。ずっと残しておきたいからです」「私も早く無罪をかちとるためにがんばりたいと思っています」

9月13日
「12日に井戸先生来てくれました。1時間の予定でしたが1時間半も私の話を聞いてくれました。泣いて泣いて仕方なかったけど、やっぱり再審あきらめないようがんばります」

10月5日
「再審はむずかしいし長い月日がいります。でも真実は1つ。戦いつづけたら勝てます。お母さん、私は井戸先生方を信用して解任はしません」

× × ×

読み終えた私は、真夜中、家族の静まりかえった自宅でしばらくぼうぜんとしていたと思う。

打ち出された言葉には、嘘のかけらも感じられなかった。「殺していません」と書くべきところで、1文字「ろ」が余っているところなど、表現のつたなさ、幼さ、だからこそ、にじみ出ている素直さ、そして、何よりも、ほとばしるような無実の訴えには、圧倒的なインパクトがあった。角記者は最初に手紙を読んだときの印象を後に「借り物の言葉ではない、と直感した」と表現したが、私も同感だった。


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*呼吸器事件の調査報道「西山美香さんの手紙」全40編をはじめ、中日新聞で展開した関連記事などを収録した「私は殺ろしていません-無実の訴え12年 滋賀・呼吸器事件」(中日新聞社出版部)を6月9日に刊行した。

文=秦融

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