拙くて幼い。だが、獄中からの手紙はまぎれもない「真実の声」だった|#供述弱者を知る

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平成20 (2008) 年
4月17日
「本当に本当に再審をしてもらえて私が殺意があってTさんを殺ろしていないとわかって欲しいだけです。私は、巡回をしていたらなくなっていなかったかもしれない、と考えると刑務所に入っても仕方ないと思うようにしています」

「無実なので絶対に受け入れることができない」


西山さんは冤罪を訴えながら、患者の死について「巡回をしていたら…...」と悔い、自分を責めてさえいる。彼女を殺人犯などとは、とても思えなかった。次の抜粋は8年後の2016年、私と角記者が打ち合わせした直近の手紙を選んだようだ。出所を翌年に控えていても、思いの強さには何ら変化はない。

西山美香さんの手紙
出所前に母親に宛てた西山さんの手紙。いつも手紙の書き出しは「大好きなお母さんへ」などで始まり、親を思う気持ちが伝わる

平成28 (2016) 年
5月12日
「世間の人に、私が無実ということを分かってくれなくてもいいのです」「しかし私には国民救援会のみなさんが支援してくれています。それだけでどれほど私がはげまされているか。3類(=刑務所内の生活態度のランク付けのこと)になれたのも救援会の方々のおかげです」「無事故(=刑務所で懲罰を受けないこと)で受刑する努力をしていても有無判決を受け入れた訳ではありません。無実なので絶対に受け入れることができません」「私は無実の受刑者として精一杯に努力しています」

5月17日
「私はTさんを殺ろしていません。これだけは胸をはって言えることです。しかしA刑事を心から信用し嘘の自白をしたことは人生において最大の後悔です」

6月8日
「いち早く帰って(脳梗塞で倒れた)お母さんのうごかない右足になってあげたいと思います」

6月11日
「美香は弱くて裁判とここの生活と両立するのがすごくむずかしい」「今正直しんどくてたまらなくて〝再審請求〟やめようかなと思い、池田先生(=池田良太弁護士)には14日に手紙を出します」

6月13日
「たまにやっぱり私、Tさん殺ろしたんかな?とか思ってまう。再審しんどくて…。でも殺人なんかしてへんし…でも刑務所から出れへんし…くやしくてたまらん。美香の裁判でお兄ちゃん2人はかしこくて私はアホ、対人コミュニケーションが下手で苦手、なかなか協調していくのがむずかしい子、とか井戸先生(=主任弁護人の井戸謙一第2次再審請求審弁護団長)は強調してくれています。ここでも他の人と一緒に今落ち着いて生活してるけど、すごくしんどい。私こそ知的障害者かな?と思ってまう。先生方も考えてくれてるけどきつい。青木さんみたいに精神的に強くなられへん」

手紙に出てくる「青木さん」とは、東住吉事件の冤罪被害者で一時期同じ刑務所にいた青木恵子さんのことだ。2007年ごろから、西山さんの「獄友」として交流があった。
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文=秦融

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