6月中旬に開始が予定されている日本版の特徴は、個人情報を極力取得せず、接触者を「追跡」しない点にある。そのため、接触「追跡」ではなく接触「確認」アプリという名称になった。当局が接触者を特定して隔離するといった機能はないので、その効果は個人の自発的な行動変容が頼りだ。
この接触確認アプリで本当にクラスター追跡ができるのか? 効果を上げるために何が必要なのか? 内閣官房の新型コロナウイルス感染症対策テックチーム内の「接触確認アプリに関する有識者検討会合」で有識者として参加する、世界経済フォーラム第四次産業革命日本センターの藤田卓仙氏に、今後のデータ政策の課題とともに聞いた(第2回は『「データは誰のもの?」は成り立たない。個人の権利と公共性の両立へ』)。
──感染者との接触履歴をスマートフォンのアプリで追跡する「コンタクトトレーシング」ですが、なぜ日本版はこのタイミングで始まるのでしょうか。
3月ごろからシンガポールの「Trace Together(一緒に追跡)」アプリなど、海外で接触者をBluetoothを使ったアプリで追跡する動きが出てきて、日本でも検討が始まった。Code for Japanや楽天など民間企業が先にシンガポールのアプリをベースに開発を進めていた。
4月にグーグルとアップルがBluetooth機能を使った接触履歴のAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース、アプリの共通規格)の共同開発を発表し、「1国1アプリ」「保健当局が管理するものに限る」との方針を示した。日本でもこのAPIを使うことになり、民間が開発したものは採用されず、厚労省が開発・運用することになった。
5月9日から私が参加する、接触確認アプリに関する有識者検討会合が開催されて、その議論に基づいて5月26日に仕様書が公表された。公募で決まった業者が仕様書を使ってアプリを開発しており、6月半ばにローンチする予定だ。
──接触者を追跡しない接触「確認」アプリはどのような仕組みなのでしょうか。
スマホでこのアプリを使うと、他のこのアプリの利用者が、濃厚接触者の定義となっている「概ね1m以内の距離で継続して15分以上の近接状態」にあった場合に、その接触履歴が自分のスマホ端末上に記録される。この時、記録するのは暗号化された情報で、記録は一定期間が過ぎたら削除される。
新型コロナウイルス感染症対策 テックチームが公表した「接触確認アプリに関する仕様書」の資料より